21
アレンは身が焦げるような怒りで満たされていた。
焦れどカナデの消息は掴めず、魔術大会なんて参加する余裕など無く棄権とした。
ミラとキラに当時の事を聞いても大した情報には足らず、仮面の男が彼女を連れ去った事実しかない。
「「申し訳ありません…!!」」
額を床に擦るような土下座で謝る二人を立たせてやり、捜索を手伝うよう命令を下す。
今回のような誘拐は完全に盲点。まさか、会場の関係者席で連れ去りの事件が起こるなんて誰が想像できようか。
ただ、騒動中、見て見ぬふりをした関係者席で近くに居たであろう貴族達は許せず胸ぐらを掴み脅す。
「妻の身にもしも、何かあれば貴方達にも責任を負ってもらいます。」
ぎりっと、歯噛みしたアレン。
大会を棄権したことで、聖女の思い通りになる流れとなったが、事情を知ったエメロードも大会を棄権することになった。これは彼等の中で互いが好敵手であり、どちらかが棄権することは大会の出場の意味が無くなったからだ。
そして、捜索に手を貸してくれるという。
「エメロード、すまない。」
「いや、お前が出ないなら大会に意味はない。奥方を直ぐに捜索に出よう。」
捜索隊はアレンの信用する者たちだけで三組作られた。
街中を走り回って探す捜索隊と近隣の森を探す隊、そして大会場と王宮を探す隊が一斉に走り出した。
「無事でいてくれ…!」
拳を握り締め、悔しさでいっぱいのアレン。自身も捜索に走り出す。
そして、一週間捜索は続いた。まだ何の痕跡も出てこず、もう諦めている捜索隊も居る中アレンは一人走り回っていた。
そんな中、靴磨きをしている少年から声をかけられた。
その少年はとりあえず足を出して、と小声で話し始める。
「仮面のお客様、左から始めますね。」
手際よくブラシがけや油分のクリームを革靴に着け靴磨きを始めた。
「アレン=ローレンス様ですね?」
革靴を磨きながら小声で会話が続く。
「…何か知っているのか?」
「まぁまぁ、まだ靴磨きは始まったばかりです。」
古びた布で磨き上げる少年。
「これは、独り言ですが。俺は孤児院の子供です。」
急な自分語りが始まる。
「毎月のように孤児院へ大金が送られるんで、別に靴磨きの仕事をしなくとも余裕のある孤児院です。」
左の革靴が仕上げに入る。
つるりとした質感で鏡のように光を反射する。
「大金を持ってくる奴は俺と同じとこの出で、元孤児です。」
今度は右足を引っ張り出され、靴磨きは続く。
「そいつは、お客様と同じ仮面を強いられた生き方をしてきました。ですが、最近、女ができたそうです。」
女、という言葉に反応するアレン。もしかするとこの少年はヒントをくれようとしているのかもしれない。
「いやですね、もしもの独り言ですが、孤児院に地下があれば人1人閉じ込めては置けるなぁ、と。」
そう、思うんですが。俺は地下を見た事が無いんです。
少年は真顔で真剣に靴を磨きながら話す。
「じゃあ、どこに地下があれば絶対に見つからないんだろうか。俺は見当もつきませんが。」
右足の革靴も鏡面仕上げ。とても腕が良い少年だ。
「……お客様、どんな事が起きようとも愛している自信があるならお探しください。」
ありがとうございました。と、料金を受け取りキャスケット帽を取り頭を下げる少年にアレンは礼を言う。
「ありがとう少年。どんな事があろうとも俺の愛に嘘偽りは無いと誓う。」
磨き上げられた革靴で走り出したアレン。いくつもの魔法陣が彼を囲む。目にも止まらないスピードで街を駆け抜けて屋敷へ戻るアレンであった。
いいね、ブックマーク、評価ありがとうございます!




