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王国アレクサンドロス、王城では聖女様の待遇とこれからの生活や役割の会議が行われていた。
まず、生活面は王宮で暮らしてもらうこと。そして毎日宮殿の教会内でお祈りの時間を持つ事、そして、できれば早急に伴侶を持つ事。と、話が進められていた。
伴侶についてはもう既に第一王子も第二王子も聖女様の虜であったが当の聖女は見向きもせず普通に暮らさせてくれ、と嘆願していた。
私の予想通り、彼女の目と私の目は同じ価値感を持っていた。だから、王城で仮面の隙間から漏れ出す美しさに心を持っていかれたのだ。そう、彼女はアレン様を欲しがっていた。どうして私が国の重要機密を知っているのかというとアレン様と聖女様と私の3人で話し合うことになったからだ。
「初めまして。私はユウリと申します。」
聖女様は日本人らしい礼をしながら挨拶をした。ちょっと懐かしい気持ちになり、私も礼をしながら挨拶をした。
「私はカナデと申します。」
緊張が走る。
ミラとキラが紅茶と焼き菓子を運び少しだけ空気が和らぐ。
「…あの、私、単刀直入にこの国の王子と結婚はしたくないんです。」
「良い話ではあったのですが、そうですか。それは残念です。では、未婚の貴族を集めた会を計画しましょうか。」
アレン様は実に冷静に聖女様に敬意を払いながら提案をする。それに少し残念そうな表情を浮かべる聖女様。
「……不躾ながら、アレン様は未婚とお聞きしましたが…」
私に目線を移し言葉少なく訴える。要は、未婚なら聖女と結婚した方が国で重宝されるぞ、と言いたいのだろう。
「ええ、結婚はこれから時期を見てするつもりです。」
突然、俯いていた私の肩を抱き結婚すると言い放って聖女様の期待を切り捨てる。
「えっ、そうですか…できれば、私も仮面をつけられた方がお相手なら嬉しいのですが。」
物凄く残念そうに肩を落とした聖女様。こちらとしてはあまりぐいぐいと来る方でなくて良かった、が本音だ。
それにしても結婚発言には驚きとともに嬉しさが爆発しそうになる。
冷静を装い紅茶を一口飲む。
「仮面…と、いいますと聖女様はカナデと同じ目を持つ方ということですか?」
「恐らくは。…正直にお話ししますと、体格はスラっとしていて目は大きくて鼻筋も通った、この国では醜いとされる方が好みです…。」
何てとても素直な事を話す方か。
私は紅茶を吹き出しそうになるのを我慢して、誤魔化すように焼き菓子に手を伸ばす。
「ですから、チャンスがあれば、と思っておりました。」
ポッと頬を染めてアレン様を上目遣いで見つめる聖女様。
それに対してもやもやした気持ちになり咳払いをした。
「こほんっ、…未婚の仮面の方ならルディ様などいかがでしょうか?」
私は会話にやっと入り込む。無言を貫いても良かったがアレン様へのアピールを止めて貰いたいため発言をした。
「ルディ様は、アレン様と同じく仮面の方なのですね。是非ともお会いしたいです。」
話はルディ様と聖女様のお見合いに決着がついた。
でも、聖女様は帰られる寸前までずっとアレン様へアピールを止めず私は嫉妬でおかしくなりそうになった。
私自身、こんなに嫉妬に狂うなんて思ってもいなかったので自分でもアレン様への気持ちの大きさに気づかされる。
聖女様をお見送りする際、彼女の手を取り馬車へ乗らせる役をアレン様がした。転ばないよう危険がないよう安全の為とはいえまた嫉妬がジリジリと身を焦がした。
「カナデ、今夜はたっぷり甘えさせるから。」
覚悟していて?と、色気のある視線を寄越すアレン様。
きっと私の小さなやきもちにさえ敏感に感じ取っていたのだろう。
「アレン様こそ、覚悟していてくださいね。」
赤面しながら応えると小さく笑われる。一枚も二枚も上手なアレン様。ベッドの中でもそれは同じできっと明日は部屋で遅い朝食になるんだろうなと、予想しながらアレン様の大きくごつごつとした手と繋ぎ合う。
「結婚、急ぐつもりはなかったが、早めてしまおうか。」
私の顔色を見ながら問いかけてくる。
それに私は嬉しくて答えてしまう。
「アレン様が良いなら私はしたいです。」
手を握ると握り返され、緩んだ頬にキスをされた。それだけでは足りず、ずっとしていた仮面を外し、背の低い私に合わせて少し腰を折り深いキスをした。
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