真昼の月。
「…あ〜ぁ。ホント、嫌んなっちゃう。」
言いながらスゥッと流れた涙が枕に染み込んだ。
ヒラヒラと風に泳ぐカーテンの隙間から青い空と白い月が見えた。爽やか過ぎて嫌になるほど、青くて綺麗な空にポッカリと浮かんだ真昼の月。
見上げていたら自分が酷く醜く思えて涙が止まらなかった。
ヒンヤリしたシーツに包まれた身体はまだ熱を帯びていて、貴方がさっきまでここにいた事を感じずにはいられない。
「なんで私のモノにならないの?こんなに好きなのに。」
いつも突然私の所に来る貴方。
いつどうやって仕事をしていて、いつ愛する家族の元へ帰るのかなんて私は知らない。
…知りたくもない。
終わりにしなければ…そう思うのにやめられない。
「愛してる」
貴方が甘く囁く度に体が疼くの。
その快感に私はいつも抗えない。
その声は麻薬のように私の身体を掴んで離さない。
……離してくれない。
「…もうやめよう。こんなの間違ってる。」
『…また来るよ。連絡する。』
そう言ってこちらを振り向きもせずに貴方は部屋を出ていった。
さっき出ていった扉に向かって枕を投げつけた。
「ふざけんな!馬鹿野郎っ!!」
シーツにくるまって涙が枯れるまで泣いたら、いつの間にか眠っていた。…子供のように。
夏の終わりを感じる冷たい風で目覚めた私は、鏡に映る酷く腫れた顔を見て自嘲気味に笑った。
「ひっどい顔。…こんな顔見たらもうここへは来ないかもね。」
口に出してしまってから、そんな風に簡単に終われたらどんなに楽だろうか?とまた気持ちが沈んだ。このままじゃどうにもこうにも頭がスッキリしない。
熱いシャワーを浴びて冷蔵庫からビールを取り出した。
カシュッといい音を立てた冷たい缶に口をつけると一気に喉へと流し込む。
「…はぁ美味い。………ふふっ。変なの。」
自分でも何をやってるんだろうと気づいてしまったらなんだか笑えてきた。
缶ビールを片手にベッドへと腰かける。
カーテンの閉まった暗い部屋に薄らと月明かりが漏れて見えた。
「…あ。今日は満月か。」
昼間見た白い月を思い出して苦笑いした。
「どれどれ。今月はどんな月かしら?どんなに綺麗か見てやろうじゃない。」
何の上から目線なのかわからないが、一人で言いながらシャッと勢いよくカーテンを開けてみた。
…雲ひとつない夜空に明るく輝く満月。
吸い込まれるように見惚れた私の顔もボンヤリと照らしてくれる。
「何よ。こんなに綺麗だなんて。……嫌味だわ。」
不意に再び溢れた涙を拭う事もせず、私は残りのビールを飲み干した。
明日、彼にメッセージを送ろう。
…いや、送りつけてやろう。
『あんたなんかもういらない。さよなら。』ってね。