51話 魔女の箱庭
「びっくりしたー。お化け屋敷の事を思い出しちゃって・・・・・・。魔法だったのかぁ」
「ハニハウに、『明けない夜は無い』とか、まともな歌詞が会った事に、ワタシは驚いたお」
田渕は、大家が出した回転式機関銃を、ドローンに取り付けようとした。だが、やはり適切な金具が無いので、上手く取り付けられない。
「真下向いちゃうね。それに、回転式機関銃搭載のドローンが出来たとして、ちょっと怖すぎない? 映画では、暴走した人工知能が、人類を抹殺するのに使ってたよ」
「うむ。どう考えても悪役の武器だから、これはやめるお」
大家は、回転式機関銃と共に、二機のドローンを消した。
そうしている時、学院長が降りて来た。田渕達との距離は十メートル程で、まだ呪文を詠唱している。
「なんだお? 罠かお?」
「でも、唱え終わるまで待つのは、お約束だよね」
ようやく学院長の呪文詠唱が終わった。田渕達が動こうとした瞬間、学院長の体から、黒い波動のような物が発せられた。すると、学院長の背後から、真っ黒な何かが広がりだした。まるでキャンパスに黒いペンキが広がるように、周囲の物を侵食して塗り替えて行く。
「魔女の箱庭」
学院長の言葉と共に、闇が突然弾けたように広がった。次の瞬間には、田渕達の周囲は、全て闇に包まれる。だが、光が無いと言うのに、周囲の木々や、田渕と大家、お互いの形は判別出来た。全ての物の輪郭が白い線に覆われ、黒い画用紙に白いペンで絵を描いたような世界になっていたからだ。
「あはは! 大家さん、なんか面白い顔になってるよ!」
「いや・・・・・・田渕君、これはまずいお。昼と夜をひっくり返すような規模の魔法はさすがに有るはずが無いから、おそらく、学院長の作った何かしらの結界術に捕らわれたと見るべきだお」
「結界!? 出れないって事?」
「それは分からないけど、とにかく学院長に有利な空間だと思うお」
田渕と大家は周囲をきょろきょろと見回すが、学院長の姿は無い。と、言うか、輪郭の白い線が重なってごちゃごちゃとし、遠くを見ようとするほど、何が何だか判別がしにくい。
「田渕君っ! 後ろだおっ!」
ボコッ
背を何かに殴られた田渕は、つんのめった。振り返ると、輪郭だけの人型のような物がいる。漢字の『大』と言う字を連想するような物体だった。
「いたたたた・・・・・・。力はそれ程じゃないけど・・・・・・」
「数が多いお」
気が付けば、その輪郭だけの人間に、周りを囲まれていた。学院長が作り出したこの世界では、物体の判別と、その遠近感が非常に分かり辛かった。
「そいやっ!」
大家は野球バットを出して、人型の頭部をぶっ叩いた。すると頭部の白い線にヒビが入り、上から粉々になって消えて行く。
「結構もろいお」
「でも、ほらっ!」
田渕がパンチを繰り出すと、人型の胸の辺りをすり抜ける。それを確認した大家は、舌打ちをする。
「これは、当たり判定が白い線だけって事だお」
「じゃあ僕達は?」
田渕が、大家の顔の辺りを摘まんでみた。
「いででででっ! 痛いおっ!」
「大家さんっ! 僕達は別みたい!」
「それは、ワタシが今 世界一分かってるおっ!」
大家がべちべちと田渕の手を叩くと、田渕はようやく離した。
大家や田渕は輪郭の線以外に、目、鼻、口の線もあるので、少し触れば、そうだと分かりそうなものなのだが。
「どうしよう。こんなにすごい魔法だから、魔力切れを待つとか?」
「いや、これは学院長のあいさつ代わりの魔法だろうから、下手したら一週間とか閉じ込められるお!」
「『廊下で一時間立ってろ』が、異世界では、『異空間に一週間入ってろ』になるの!? 厳しいよ異世界っ!」
ちなみに、『魔女の箱庭』は、魔女サリアの固有魔法で、危機が迫った時だけに使う、最終かつ最大級の魔法である。
自分を中心に直径百メートルを巻き込み、制限時間は三十分が魔力の限界となる。過去、大魔族相手にサリアが戦った時、自分以外の仲間が倒れた際に使用し、大魔族に大ダメージを与え、そして立ち上がってきた仲間と共に止めを刺した。
人間の軍勢相手に使うと、一国の騎士団を飲み込み、サリア一人で壊滅させる事も可能である。
バキャッ
大家のバットを受け止めた人型は、バットを取り上げ、へし折った。田渕だから殴られても「いてて」で済んだが、大家が攻撃を食らえば、骨折は間違いない程の力がある。
「♪会いに行くわ、逆バンジー♪」
ドンッ
田渕は大家の腰に手を回し、地面を蹴った。蟻のように群がって来た人型達が上に手を伸ばすが、田渕達には届かなかった。
「速さが人間並みなのは助かるけど、これじゃ削り切られちゃうよ」
「学院長は、きっとどこかにいるはずなんだお」
バシュンッ ドォーン
大家は空から、地上に向けてロケットランチャーを放つ。
バシュンッ ドォーン バシュンッ ドォーン バシュンッ ドォーン
わらわらと集まっている人型が、粉々になって吹き飛ぶ。だが、すぐに一人、二人と、どこからともなく湧いて増えて行く。だが、いくら人型を倒そうとも、学院長が姿を現す事は無い。
田渕は、大家が出したドローンに、空中で掴まった。真下の地上には、もうすでに数十の人型が、今か今かと、田渕達が地上に降りるのを見上げて待っている。
「大家さん、何かいい手は?」
「もうめんどいから、辺り一帯を吹き飛ばすかお? ・・・・・・いや、そんな事をしたら、今度こそ森林破壊の賠償金の請求が・・・・・・」
ドローンに片腕で掴まる田渕。その田渕の逆側の腕に抱き留められながら、大家は腕を組んでうーんうーんと考える。
すると、ぴこーんと言うように目を開いた大家は、ニヤリと笑った。
「覚醒した連邦軍のアムラーは、超人的な反応を見せる。ショワ少佐は、目で見えるアムラーを狙うんじゃなく、ありもしない方向を狙ったお」
「・・・・・・・・・・・・その心は?」
「手に負えないから、適当に撃っちゃえばそのうち当たるんじゃね?」
「完璧な作戦だよ大家さん!」
田渕は、ドローンの着陸脚に右肘を掛け、その腕で大家を掴む。これで、田渕の左腕は完全にフリーになった。
「田渕君、ドローンのプロペラの下、モーター部を一つ殴るんだお!」
「えいっ!」
ゴンッ
田渕が左腕で殴ると、プロペラの一つの動きが悪くなった。
「いくおっ! 必殺、ミサイルパーティーだおっ!」
「う・・・・・・うわぁぁぁ!」
飛行機は一つのエンジンが壊れても、もう一つのエンジンで飛行が可能だ。だが、ドローンは、プロペラの一つでも故障してしまうと、途端に制御不能になってしまう。
田渕達が掴まるドローンは、その場で高速回転を始めた。
バシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッ
ドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーン
大家が右手で引き金を引き、左手でスマホからロケットランチャーの弾を出す。
空中に現れた弾を掴んだ田渕は、即座にロケットランチャーの中に突っ込む。
そして、大家がまた引き金を引きつつ、スマホからロケットランチャーの弾を出す。
空中に、高速回転をしながらロケットを吐き出す、驚異の無差別破壊兵器が出現した。
バシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッバシュンッ
ドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーンドォーン
「お・・・・・・大家さん、僕 ちょっと気分が・・・・・・」
「おぇぇぇぇぇぇぇ」
「きっ汚いっ! なんか出てるよ大家さんっ!」
「い・・・・・・一発芸。マー・・・・・・ライオン・・・・・・」
「今、披露する場じゃなくないっ?」
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