18話 クラスメートとニアミス
出発したビーチを上空から難なく見つけた田渕と大家は、そこに着陸し、何食わぬ顔でエンの村へ戻って来た。
ちなみにドローンの魔力消費量はそれ程では無いので便利なのだが、人を乗せると時速ニ十キロ程しか速度が出ないので、陸地の移動では八十キロ近くを普通に出せるジープを大家は優先して使う。
「遅かったね。心配したよ」
田渕達を見つけたアーサーは、笑顔で走り寄って来た。
日暮れのこの時間、皆は仕事を終えたようで、田渕達が持ってきた食料を使ってパーティーの準備をしていた。村人の笑顔から、このようなパーティーはとても珍しい事だと見て取れた。
「あ、うん、ごめん。ちょっとシャワー浴びてたから」
「……シャワー?」
田渕の言葉にアーサーは聞き返した。
田渕達は海から上がった後、大家が出した一軒家にてお風呂を済ませて来ていた。
「で、パーティーと言えばこれかなって、大家さんが描いてきてくれたよ」
大家は相変わらず人見知りが発動中で黙っているが、タブレットを操作し、茶色の液体が入った瓶を取り出し、おそるおそるアーサーに差し出す。受け取ったアーサーは、濁りの無い綺麗な液体に驚いたが、それが入ったガラスの角瓶にも感心している。
「ドワーフが作ったガラス瓶かな……。中身はジュース?」
「えっとね、ショワ少佐……、うんとね、エリート戦士が好んでいたブランデーってお酒だよ。残念ながら一種類しかアニメには登場……じゃなくて、まあそのお酒しか無いんだけど」
「お……お酒っ! そんな高級な物をっ!」
驚くアーサーの前に、同じ瓶が次々と積み上がっていく。一度書いてしまえば、タブレット内でコピペして、どんどん増やす事が大家には可能だ。
パーティーは、お酒の介入のせいか、大盛り上がりを見せた。何十年ぶりの酒に、大人達は涙を流しながら飲んでいた。
田渕達を驚かせたのは、田渕と変わらない歳の子供達もお酒を飲んだ事だ。この世界では、お酒を飲むことを禁じる法律は無いとの事で、十五歳未満は飲まない方が良いかも、程度の認識と言う事だった。
「あれ……?」
パーティーのさなか、田渕は一人の女の子に視線を止めた。その子は、お酒はもちろん、食事にも手を付けて無いようだった。ただ一人で、柵に腰掛け座っている。歳は田渕達と同じくらいに見えた。
その子の元へ、田渕と、人見知りの為に常に田渕の背に張り付いている大家は向かった。
「えっと、好きな物が無いのですか? シチューとかなら大家さんが出せますけど」
「シチュー?」
顔を上げた女の子は、かなりの美形だった。スタイルもアイドルのように細いが、出る所は出ている。
その子は、すぐにまた俯き、田渕に言う。
「あ、いえ……。私は食べなくても良いんです。他の人にあげてください」
「食欲が無いんですか? 病気なら僕が全治癒させますけど……」
「全……治癒? ……いいえ、あの、健康なので大丈夫です」
田渕と大家が顔を見合わせて不思議そうな顔をすると、その女の子は無理に笑顔を作る。
「では……お水を……」
その言葉とほぼ同時に、田渕の手の中に水が入ったコップが現れる。田渕はそれを女の子に渡すと、女の子は一口だけ水を飲んだ。
(モデル並みの超ダイエッターかお?)
大家が小声で田渕に言っている時、後ろからアーサーの声が聞こえた。
「レイラ、またそんな……。ボアのお肉とか食べろって」
アーサーが手を引くが、レイラは立ち上がろうとする気配が無かった。しきりに首を横に振っている。
きょとんとした様子の田渕達に、アーサーは苦笑いをしてみせる。
「ちょっと……ん……村の儀式前で……ナイーブになってる……みたいで……」
口は横に開いて歯を見せているが、アーサーの目は悲し気だった。
しんと静まるが、田渕はもやもやするので、踏み込んで聞いてみる。
「悩みがあるの? 僕達は少し便利な技術があるから、もしかすると手伝える事があるかも。冒険者としては弱いから、戦いは得意じゃないけど……」
「えっ! お前達っ、冒険者なのかっ!? ラ……ランクは?」
驚いたアーサーに、田渕は体を掴まれて前後に揺すられる。
「あの……一度もギルドに顔を出してないから、多分最低のFランクのままだけど……」
「そ……そうか。そうだよ……な。お前ら、下手したら俺よりも弱そうだもんな……。あ、ごめん!」
アーサーは頭を下げた後、ぽつりと言う。
「それに……BやAだったとしても……ヤツには……」
「ヤツ?」
「いやっ! なんでもないんだ!」
聞き返した田渕に、アーサーは自分の口を手で押さえて首を横に振った。
なんだか湿っぽい雰囲気を変えようと、大家はタブレットからカレーライスを出してみた。周囲に、スパイスの香りが漂う。
(憎っくき連邦のだけど、カレーに罪はないお。これを食べるお!)
と、言いたかったのだが、大家の口から出たのは「カレー」と言う単語だけだった。
「カレー? すごく良い香り。でも、私が食べるより、皆に……」
レイラはそう言いかけるが、そこで唾をごくりと飲み込んだ。それに気づいた田渕は、笑う。
「大丈夫だよ。大家さんは技術で、こんなもの無限に出せるんだから!」
「無限? って、あはは、そんな訳ないでしょっ! でも……頂くね!」
皿を両手で受け取ると、レイラはスプーンでカレーを頬張った。
「美味しい! すっごく美味しい! こんなの、初めて!」
レイラは、涙を流しながらカレーライスを食べた。
翌日、田渕は体の痛みで目が覚めた。
薄い布を土の上に敷いただけの場所なので、地面が硬すぎる。エンの村すべてが、このようにベッドどころか、床も無いような家々だった。
「大家さん、寝れた?」
田渕が横を見ると、大家の姿が無い。代わりに、分厚いマットレスと、薄手の掛布団があった。
「あっ! 大家さん、そんな物があるなら、僕にも出してよ!」
田渕は、窓の側に立っている大家に言う。大家は、ガラスの代わりに布を取り付けた窓から外を覗き見ているようだった。
「田渕君はぐっすり寝てたし、どうせ全治癒で治せるお。それより、外に……三馬鹿がいるお」
「三馬鹿?」
田渕は大家の横に来て、更に少し布を持ち上げて外を覗いた。すると、村の中に、鎧を着こんだ数人の男女がいた。
大家が言う三馬鹿とは、同じクラスメートの、鈴木・丸山・田中の三人だと田渕は気が付いた。他に、本条と、前原もいる。
「聖騎士と聖女もいるお。ワタシ達を捕らえに来たのかお?」
「クラスの皆はともかく、僕はアスカ国の王様とはもう会いたくないなぁ」
「ワタシは三馬鹿もだお。もし、あの五人に見つかれば、手も足も出せずに捕まるお」
「……じゃあ、見つからないように逃げるしかないね」
田渕と大家は、目を合わせてこっくりと頷き合った。
そこで、田渕達の部屋の扉が強く開かれた。
バンッ
「おはようタブチ! オーヤ!」
「うわぁぁぁ!」「ほわぁぁぁ!」
口をあんぐりと開けて抱きしめ合っている田渕と大家を見て、アーサーは目を背ける。
「ご……ごめん。お楽しみ中の所を……。まさかタブチとオーヤがそんな関係だったとは……」
「違うよっ! びっくりさせないでよ!」
「ちびるかと思ったお……」
二人の様子を見て、アーサーは笑った。どうやら、脅かしたのはちょっとした冗談のようだった。
次話は 5/19 12時投稿です。




