11話 王
「キャァァァァァァ!」
小さな村に、女性の悲鳴が響いた。
その母親と思われる目の前で、娘の首に、男の牙が食い込んでいる。ようやく牙を離した男は、村中に聞こえるような大声で言う。
「はぁっはっは! 村人全員、我の下僕、劣化吸血鬼となるのだ!」
だらりと全身の力が抜けていた少女だったが、地面に下ろされると、自分の足で力強く立った。そして目を赤く光らせる。
「知性は失われるが、力は下位吸血鬼と変わらぬ! 誇りに思え!」
笑うその男は、吸血鬼王だった。田渕達と交戦中に姿を消した王は、ナンの村に姿を現した。村人を殺さず、血を吸う事で下僕とするのが狙いのようだった。
だが、
ブロロロンッ キィッ
村の入口に急停止したジープから、田渕と大家が飛び降りてくる。それに気が付いた王は顔を歪める。
「なっ……なぜここが……分かったのだ……」
「思ったとおりだお! 減った仲間を増やしにくると思ったお!」
王は田渕達を警戒して距離を取るが、代わりに劣化吸血鬼となった少女が田渕に飛び掛かる。
「どうしたルム!」
両手を田渕に捕まれた。だが、ルムは獣のような表情と赤い目で、田渕を睨みつける。
「田渕君っ! やっぱりこの世界の吸血鬼も、吸血した人間を操れるようだおっ!」
そう言う大家の後ろで、地面に倒れていた男が、大家に向かって起き上がる。
「ちっ!」
メキィ
大家の肘打ちを顔面に食らい、その男はまた仰向けに倒れる。
「村人の血を吸い、人格を操るなんて許せないおっ!」
憤る大家に、近くにいたルムの母親が言う。
「オーヤ、あの……今の所 村で血を吸われたのはルム一人で、そこのガワは、ルムを助けようとして殴られて気を失っていただけだったんだけど……」
「ん?」
大家が振り返って確認すると、鼻からどくどくと血を流し、目を回して倒れているガワがいた。半開きになった口からは、ルムと違い、牙は見えていない。
「……とにかく、許せんおっ!」
大家は前に向き直り、後ろ足でガワに土をかけておいた。
「とりあえず、ルムを治すね」
田渕が言うと、大家が両手に拳銃を持ち、吸血鬼王から田渕を隠すように立つ。しかし、吸血鬼王は攻撃してくる様子も無く、口を大きく開けて笑った。
「治す? 治すだと? 馬鹿め! 劣化吸血鬼とされた人間は、全身の血が変質してしまっているのだ。回復アイテムはもちろん、回復魔法でさえも…」
「全治癒♪」
「全治癒? なんだその魔法は? 笑わせ…」
ルムの瞳が綺麗な茶色に戻った。田渕に気付き、いつものように、にっこりと笑った。そのルムに田渕が何やら囁くと、近くにいた母親の足に抱き着き、母親の陰に隠れた。
田渕と大家が、吸血鬼王に向かって並んで立つと、ようやく王は、はっとした。
「なっ……何をした? 劣化吸血鬼を人間に戻すには、聖女と、十人以上の聖職者が、教会で十時間もの祈りを捧げないとならないはず。……伝説のエリクサーでも持っていたのか?」
ぎりぎりと歯噛みをしながら後ずさる王だが、村の外に何かの気配を感じたように振り返り、足を止めた。
「ようやく来たか。これで、二対二だ」
入口に止めたジープを飛び越え、銀色の毛に包まれた狼男が現れた。長い毛で覆われていると言うのに分かってしまうほど筋肉質で、身長は二メートル近くある。
「こいつらがあんたさえも手を焼く奴らかよ。とてもそんな風には見えねぇけどなぁ」
「助かったぞ銀狼王。所詮、妙な魔法を使うだけの奴らだ。落ち着いてやれば、我らなら楽勝だ」
「不老不死のあんたから『落ち着いて』とか聞くとは思わなかったぜ。まあ俺とあんたが組めば勝てねぇ相手などいないがな。しかし、俺がここに来たことで、今回の王都進行は、もう無理かもだぜ」
「我の同胞もずいぶん減らした。また二百年待つしかない」
吸血鬼王は、田渕の目をじっと見た。そして銀狼王は、大家に狙いを定めたようだった。
銀狼王が地面を蹴った。狼ならではの瞬発力だが、大家のゴーグル仮面で捕らえられない程ではない。大家の目には、ゴーグルが予測する銀狼王の動きが映っている。
ガァンッ ガァンッ
「うっ!」
銀狼王の動きが停止した。自分の太ももをに視線を遣って顔をしかめる。
「魔法攻撃? ……が、俺の体に届いた……だぁ? 魔力を帯びた俺の銀毛が効かねぇのか?」
銀狼王は太ももに手を当て、大家を睨む。ダメージはあるが、どうやら傷を負わせる程では無いようだった。
「確かに舐めちゃいけねぇようだ。全開で行くぜっ!」
銀狼王の毛が逆立った。一本一本が張りを持ち、ハリセンボンの如く毛が針のようになった。
「これで物理はもちろん、上級魔法さえも俺の体には届かんぜ…………、ん、なんだその武器は?」
バシュンッ
大家のロケットランチャーが発射された。それが、銀狼王の胸元で炸裂する。
ドォーン
「ごふっ!」
さすが自慢するだけあって、銀狼王は耐えた。だが、胸元が明らかに焦げ、胴体の右半分の毛が焼け焦げた。
「かっ……かは……。また突き抜け……最上級魔法か?」
銀狼王の毛はすぐに生えそろって来るが、足取りはふらふらとしており、千鳥足で後ろに下がり距離を取る。
「うがぁぁぁ! 土魔法 ロックランス!」
銀狼王がそう叫ぶと、地面から三角錐を頭にしたいびつな柱のような物が一本ずつ、銀狼王の左右から現れ、宙に浮かぶ。
「近づけねぇのなら、俺も同じことをするだけだ! 銀狼の王を舐めてんじゃねぇ!」
岩槍が放たれた。矢のような速度で大家に迫る。
ガガバァァァン
岩槍が砕かれ、石礫になって地面に落ちた。
大家のいた場所に、何やら金属製の箱型の物体が横たわる。大きさは五メートル程で、車で言うと1BOXカーのサイズだ。
「ガイグダン レフトアーム!」
金属の箱が持ち上がった。よく見ると、片側の先には、人間の拳とそっくりな構造をした部分がある。まさに、巨大ロボットの左腕だった。それが、大家の左腕の場所に、アンバランスにくっついている。物理法則についてはまったくの不明だ。
「左腕が……巨大魔獣の腕に? なんだってんだその魔法は……?」
銀狼王の表情から、ようやく余裕が消えた。
ガイグダンの左手に、いつの間にか黒い円盤が握られていた。その直径一メートルはある円盤を、大家は銀狼王に投げる。
「ぐっ!」
銀狼王は上体を振って躱した。黒い円盤は、森の中へと消えた。
「ううう……ウゴォォォ!」
一か八かの賭けに、銀狼王は出たようだった。なりふり構わず一直線に大家へ向かい、大きな口を開ける。大家の腕が重くなったため、動きが遅いだろうと思ったのかもしれない。
「ガイグダン ロケットパァァァンチ!」
銀狼王は、きっとまったく想像が付かなかっただろう。まさか、あの巨大な腕が、切り離されて射出される事を……。
ドッ……メキバキメキメキ……
「ウゴ…………あ…………へ…………」
巨大ロボットの拳を、銀狼王は抱き抱えるような姿勢でそのまま吹き飛ばされる。拳に張り付きながら、その腕と共に森の奥へと消えていく。
ドッ カァァァァァァァァァン
突如、森の中で大きな閃光と爆発が起こった。光の中に、吹き飛ばされ宙を舞う大木が見えた。
「対ロボット用地雷。最新型の機体とは言え、これを食らったらひとたまりもあるまい」
アニメに出て来た誰のセリフかは不明だが、大家はそう言ってニヤリと笑った。どうやら先ほど投げた黒い円盤は、二十メートル級ロボットさえも吹き飛ばす、高出力の地雷だったようだ。
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