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1話 異世界へ


 面白い、くだらない、遊びたい、バイト行きたくない、部活したい、早く帰りたい、そんな、いつもの日常のはずだった。


 しかし、教室は光に包まれ、別世界へ連れて行かれた。





「ようこそ勇者達よ」


 そんな言葉と共に、大人達の歓声が上がった。


 はっと我に返った少年少女達が周囲を見ると、正面に王冠を被った王様、周囲には、ローブを纏って杖を持つ魔法使い、地面の石畳には、描かれた魔法陣、があった。


「い……異世界転移って奴?」

「どっきりだろ?」

「こんなに俳優やエキストラを、俺達一般人(パンピー)に使うかよ?」

「電波ねーんだけど」

「じゃあマジ?」

「……ふざけんなよ!」


 その言葉を皮切りに、生徒達から口々に文句が出る。しかし、その声はあっと言う間に収まった。気が付けば、杖を持った魔法使いが、鎧を身に付けた兵士に入れ代わって、威圧するように生徒達を取り囲んでいたのだ。


「混乱するのも良く分かる。だが、これは女神の意思なのだ!」


 王様はそう言った後、生徒達に説明を始める。




 召喚は、十年に一度の、二つの月が重なる日に行われる。

 召喚が成功するかどうかは、女神の意思。

 召喚されし異世界の民は、魂の格が高く、希少(レア)職業(クラス)の可能性が極めて高い。

十分な衣食住を保証するが、王家の為に働いてもらう。

 戻る方法は、王家には伝わっていない。




 勉強から解放されて、喜ぶ生徒もいれば、家族と会えない事を寂しがる生徒もいた。


 だが、生徒達は、全員が王に従う事にした。それは、王様や、周囲の兵士から、蠢く不穏な空気を感じ取っていたからだ。


現代日本であれば、総理大臣に直接文句を言ったとしても、厳重注意で済み、投獄などはありえない。だが、この世界では、投獄どころか、命まで奪われそうな雰囲気があった。実際、江戸時代の日本ではそうだったし、中世ヨーロッパでも同じだ。


高校二年生であった生徒達は、授業で習った事と、目の前にいる兵士達の鋭い視線を結び付け、反抗などしない方が得策だと判断した。





 場所は変わり、四十人の生徒達は、王の間へ連れて来られた。


 王が壇上の椅子に腰かけており、その前には幾人もの神官と、職業(クラス)を判別する二メートル程の石板があった。


「おおっ! 聖騎士(パラディン)だ! すごい、最上級職だ!」


 神官達が色めきだった。聖騎士(パラディン)と判断された本条太陽は、照れくさそうにクラスメート達に、はにかむ。


「こちらは聖女だ! 伝説の聖女だぞっ!」


 学級委員長である前原香織は、頬を両手で押さえて驚く。


その後も、「賢者だ」「狂戦士だ」「四属性魔導士だ」と、希少(レア)職業(クラス)の確変状態となり、最悪でも二属性魔術師で、貴族でも滅多にいない程の良職業(クラス)だった。


 全員が終わったようで、次は宿舎や訓練場へ案内されようとしていた時、ある神官が、首を傾げながら指を指した。


「あの者共は?」


 他の神官達の目が向く。そこには、背を丸めておどおどとする男子生徒と、まるで森羅万象と一体化したように一つも動かないおかっぱの女子生徒がいた。男女どちらも、眼鏡をかけている。他の生徒達からは、「オタ一号と、オタ二号じゃん」と、嘲笑を受ける。


「……なんと! まだいたのか。早くこちらへ来い。しかし、影の薄い二人だ」


 神官長が呼ぶが、二人はおそるおそる一歩近づいただけだった。神官長が強く手招きをすると、ようやく二人は判別石板の前に来た。男子生徒から、石板に右手を乗せる。すると、石板に文字が浮かびあがり、それを神官長が読み上げる。


「えっと……、吟遊……詩人?」


 生徒達がざわつく。何故ならその職業(クラス)は、今回の判定では初の職業(クラス)だったからだ。


「次の者は……絵師?」


 女子生徒は、石板から恥ずかしそうに手を引いた。


「なんだよ吟遊詩人って?」

「絵師ってなんなの?」

「歌上手いんじゃね?」

「じゃあ、絵師は絵が上手なだけなの?」

「え? それだけ?」

「戦力になるのそれ?」


 生徒達が騒ぐのを、神官達は止めなかった。それどころか、神官達も、険しい顔で議論を始めた。しばらく王の間が騒然としていたが、ようやく神官長が王様の元へ向かい、耳打ちした。


 すると、王様は、呆れた顔をして、吟遊詩人と、絵師の男女に告げる。


「まさか、召喚されし勇者達から、平民でも外れと言われる吟遊詩人と絵師の職業(クラス)が出るとはな。お前達から勇者の称号を剥奪する。どこぞへも行け」


 二人は、生徒達からくすくすと笑われながら、兵士に両腕を掴まれ、引きずられて行った。





 男子生徒と、女子生徒は、僅かな硬貨が入った小袋を渡されただけで、城門から出された。二人は振り返るが、鋭い目つきの門番に何も言えず、とぼとぼと城を後にした。


 貴族街を抜け、城下町の入口に来た時、二人はようやく足を止め、おそるおそる顔を向け合うが、遠慮がちに視線を合わさずに話す。


「あの、僕、田渕誠って言うんだ。はじめまして……」


「お……大家正子。ハジメマシテ……」


 同じクラスになって二か月は経っているのに、二人は自己紹介をし合った。だが、言葉を交わすことどころか、目を合わせる事も初めてだったので、至極真っ当な自己紹介だとも言える。


「いや……、はい、よろしく……」


「こっ……こちらこそ……」


 話下手な自分が悪いのか、エピソードの無い相手が悪いのか、とりあえず話は膨らまず、田渕と大家は無言で街へ入った。




 二人は、数時間かけて異世界の街を散策し、物価と品揃えをそれとなく見て回った。すると、王様から渡されたお金は、一人当たり日本円で一万円程度だと言う事が分かった。


日も暮れて来たので、二人は宿屋へ入る。宿泊は銀貨五枚で、食事は追加で銀貨一枚、日本円だと、計六千円だ。小学生でも分かる計算だが、これで所持金が四千円となり、明日の宿泊費も払えなくなってしまった。


あと、異世界での意思疎通についてだが、どうやらこの世界は、異世界語を話し、異世界文字を使っているようなのだが、何かの力が働いているのか、日本語がそのまま通じている。しかし、文字は翻訳されておらず、見た事の無い文字の羅列のままなので、読み書きは、勉強しなければ、今の時点では難しい物だった。

 



こんにちは!

正直、スロースタートな作品ですが、しばしお付き合いください。


次話は 4/7 22時投稿です。

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