星は嵌められる
「ちゃんと食べてるのか?」
「しっかり食べさせてもらっているから大丈夫」
陵家の庭を歩きながら心配そうな視線を向けてくる翔貴に、星華は逞しくお腹を軽く叩いて見せた。陵家の庭は噂のように死体など埋まっているわけもなく、詠星苑以外は季節の花々が植えられているため何度眺めていても飽きない。
あれから数回、琴の稽古の日はやってきた。相変わらず、燈惺との関係は何も変わらず、向けられるのは冷たい視線だけだ。
琴の稽古は燈惺が屋敷にいる日に行われ、春搖は琴にも触れず燈惺を探し回っている。
睡月も口だけなのかと思っていたが、翔貴から真剣に琴を習っている。睡月の琴の音は、穏やかで優しく心地よい。星華は邪魔にならないところで、いつもその音を聴いていた。
そして、稽古後に翔貴は星華といつもこうして陵家の庭を散歩する。
「体調の方は変わりないのか?」
「もちろん元気よ。藍家の時のように、雑用をさせられることもないし、元気がありあまってる」
「…相変わらずだな」
その声は呆れてはいるが、表情は優しさで満ち溢れている。調子にのりすぎるなと、星華の頭をわしゃわしゃと撫でたあと、翔貴は真剣な表情になった。
「腕輪は絶対に外すなよ」
いつもの口癖に星華は口を尖らせた。何かあるとすぐにそれだ。
「わかっているわ。両親の形見だもの、ちゃんと大事にしてるわ」
大丈夫だと、左手につけている腕輪に衣の上から触れてみせた。失くさぬように他人に見せてはいけないと言われてきたため、衣の下に隠している。
しっかり隠しているのを見て安心したようで、翔貴はまだ帰りたくないと駄々をこねる春搖を迎えに行った。
翔貴と春搖を見送り詠星苑へ戻ろうとしていると、燈惺が向こうから歩いてくる。
今日も黒い衣を羽織っているが、燈惺が着ると黒さえも美しい色になる。
「逢引きは終わったか?」
燈惺は隣に立つと、突然顔を寄せ星華の耳元でそう囁いた。冷たい声に心臓の音が早くなるのが悔しいが、そのくらい燈惺の顔は美しいのだから仕方ないと言い聞かせる。
「殿下は、両親亡きあともずっと面倒を見てくれました。本当の兄のような存在なのです」
冷静さを保ち、星華は静かに誤解を解こうとするが、
「無理に殿下と呼ばず、いつものように名前で呼べばいい。ああ、あと私にも敬語は使うな。殿下に話すように気軽に話したらいい。形だけの夫婦とはいい、殿下には気軽に話すのに、夫に敬語で話すのは不自然だろう」
「それは…」
燈惺はわざと意地悪で、敬語を使うなと言っている。翔貴と兄妹以上の親しさだと言いたいのだ。
狼狽たえている星華に対し、冷たい笑顔を浮かべている燈惺が憎らしい。この状況を楽しんでいるようにも見える。
我慢できず言い返そうとした時、睡月が駆け寄ってきて二人の前で止まった。
「兄上!」
睡月は一瞬だけ星華を見たが、懇願するように燈惺の腕を掴んだ。
「どうした?」
「私の玉の簪がなくなったの。いくら探しても見つからない。あれは父上から頂いた大事なものなのに…。お願いだから、詠星苑を探させて」
必死に訴える睡月の様子に、燈惺は眉を顰めた。そして、表情のない顔で星華を見る。星華はとっさに、自分ではないと首を横に振った。
睡月は星華が簪を盗んだと言いたいのだ。
「私がとったと?私はその簪のことなど知りません」
さすがの星華も、盗みの濡れ衣を着せられるのは許せない。
燈惺は少しだけ考えた後、睡月の方を向いた。
「睡月はもう一度、屋敷中を良く探し使用人たちにも確認しろ。詠星苑を探すのは、その後だ」
その判断に、星華はほっと息をついた。
陵家で睡月の簪の大捜索が行われたが、見つかることはなかった。
燈惺は重そうな腰を上げ、睡月とその侍女と玄士を連れ詠星苑へと向かった。身の潔白を証明するため捜索の間、燈惺のそばにいた星華も雨衣とその後を追う。
詠星苑の星華の寝室に入る時、燈惺は立ち止まって部屋の中を黙って眺めていた。その手には今日もが剣が握られている。その瞳が揺らいで見えたのは、星華の気のせいかもしれない。
亡霊がでると言われていた部屋は、星華の手により見違えていた。
元々置かれていた物は、上品で質の良い調度品ばかりだ。一つ一つ手入れしたため、地味ではあるが、見かけだけは高官の妻の部屋と言っていいものになっていた。
睡月や玄士も部屋の変わりように驚いていたが、燈惺の指示で玄士と侍女が部屋の中を探っていく。
絶対に盗んでいないと星華は自信をもって言えたが、睡月の様子に嫌な予感がした。
わざわざここまでするのは、自信があるからだ。
衣を入れていた棚を探っていた侍女の手が止まる。その視線の先にあるものを良く確認したあと、震える手で薄い桃色の玉でできた簪を差し出した。
「…若様、ありました」
「…それよ。私の簪だわ」
簪へと飛びついた睡月を見て、星華はまた嵌められたと悟った。
反抗しようとした雨衣の手を星華は握って止める。その様子を黙ってみていた燈惺は、無表情で何を考えているかわからない。
「他にもないか探せ」
緊迫した空気の中で、玄士は戸惑いながらも手あたり次第に棚を開けていく。使ったこともない戸棚を探っていた玄士が手を止める。とても悲しそうな目で星華を見た。
「燈惺様…これが…」
その手には、巻物があった。巻物を取りその中を確認した途端、燈惺はにやりと口角を上げた。
「大人しくしていると思ったが、こんな大それたことをしているとはな」
そう言って、燈惺は巻物を投げ捨てた。星華はすぐに巻物を拾い、その内容を確認する。
「…私はこんなもの知らないわ!」
陵家の武器庫の場所やその詳細、そして燈惺たちの行動が詳しく書かれていた。
「では、なぜここにこんなものがある?確かにお前は良く庭にいたな」
「私は…そんなもの書いていない。雨衣でもないわ。本当よ信じて」
これはやり過ぎだ。睡月を見ると、驚きの表情で星華を見ている。簪の時とは表情が違うため、演技の反応とは思えない。
簪はおそらく睡月だ。でも、この密書は誰が企んだというのだろうか。
「弁明はあるか?もしお前の仕業ならこの密書を渡そうとした者を聞かなければならない」
「簪をとったのも、密書を綴ったのも私でないわ。確かに庭には良く行っていたけれど、私は武器庫の場所など知らない。誰かと繋がってなんていない」
信じてほしい。その一心で言葉を紡ぐが、皆から向けられる疑惑の視線に心がえぐられていく。
燈惺の手には、また剣がある。
また剣を向けられる運命なのだろうか。こたびはもう命がないかもしれない。
その覚悟で、懇願するように床に膝を付いた。こんな状況でも涙が出ない自分に憐れみを感じながら、頭を下げたあと燈惺を見上げた。
「私ではないわ。…どうか信じて」
燈惺は冷酷な死神と言われる冷たい瞳で、星華を真っ直ぐ射抜く。
刃が向かってくるのを覚悟し星華は瞳を閉じた。しかし、いくら待っても何も起こらない。
おそるおそる目を開けると、燈惺は詠星苑から出て行っていた。
数日立っても、嵐のような静けさが続いていた。
結局あの後、燈惺からお咎めを受けることはなかった。燈惺は冷たいが、道理は守る人だと思っている。きちんと調べているのだろう。
気になったのが、密書の文字が星華の書く文字と良く似ていたことだ。
その後、玄士が星華の筆跡を確認していった。筆跡だけで判断したら星華の仕業だと思うだろうが、この屋敷で嫁いだばかりの星華の文字を真似できる人はいないはずだ。
嫌な予感がする。これで終わるとは思えない。
雨衣も調べると言ってくれたが、今動くと逆に間者扱いされる。大人しく詠星苑で過ごしていた。
五日過ぎたころ、睡月が詠星苑を訪れた。
今までの嫌がらせは仕方がないと我慢できたたが、盗みを擦りつけられたことには怒っている。無言で目の前に立つと、睡月は深く頭を下げた。
「今日は…その謝りたくて…」
「何のことを?」
「…正直に言うわ。私は兄上と貴方の結婚を反対してた。ずっと公主様の想いを知っていたから、貴方は兄上にふさわしくないと思って…たくさんの嫌がらせをしてしまった」
「どうして突然謝ろうと?」
普段の嫌がらせも、詠星苑の件も、星華はいつもは黙って耐えていたが今日は違う。堂々と睡月へ追求していく。そんな星華に、睡月は勇ましさを失くしていく。
「だから、謝るって言っているでしょう。その…簪の件は…」
「簪を私の部屋に置いたのは、貴方の仕業でしょう。でも、密書は違う」
中々先を言わないため歯がゆくなってその先を言うと、睡月の小さな肩が大きく揺れる。その反応で、睡月に仕業ではないと確信できた。
密書の件は大ごとだ。彼女なりに気をもんでいたのかもしれない。
「…許してくれる?」
「わかった。貴方の謝罪を受けれいるわ」
そう優しく受けれいた星華に、後ろで控えていた雨衣は明らかに不満そうだ。
「本当に?許してくれるのね?」
「えぇ」
大きく頷くと、睡月はほっとしたように息をついている。その様子はやはり可愛いらしい。
「実は…お礼にある所へ連れて行きたいの」
しかし、緊張した様子で星華を見上げる姿にまたもや嫌な予感を覚えた。
久しぶりに街へ出でると、真っ直ぐ歩けないほどの人で都は賑わっていた。様々な人で活気に溢れ、どのお店も客呼びに力を入れており、様々な声が響きわたる。
睡月は星華と二人きりで行きたいというので、雨衣は屋敷にいてもらっている。
何か企んでいるとは思ったが、睡月も侍女を置いて一人で来ている。
腹を割って話せる機会かもしれないと、絶対に同行するという雨衣を説得して一人で来たが、どこに向かっているかわかった途端、雨衣を連れて来るべきだったと後悔した。
都の中でも特にこの場所は、多くの人が集まる。客層は男性ばかりだ。
「睡月ここって…」
香花楼という有名な酒楼で、ただの酒場ではなく、妓楼のように多くの女を抱えている。
今も着飾った女たちが入口で男たちを案内している。女子が来るような場所ではない。
地味な衣を着ている星華と比べ、睡月は今日も着飾っているため華やかさは香花楼の女たちに負けてはいない。男達は睡月を店の女と勘違いしているのか、じろじろと視線を送ってくる。
「睡月はここへ良く来るの?」
「えぇ…、ここの料理は美味しくて、最近若い娘にも人気なのよ」
睡月ほどのお嬢様が酒楼に出入りしているわけがない。睡月のぎこちない様子を見て、星華はこの悪だくみに呆れて笑いが出てきた。
「そうね、ここはお酒を楽しめる人気店だわ。女がお酒を楽しんでおかしくない。でも、知ってる?ここは女と戯れたい男も来るし、高官などが密談するために使う場所とも聞いたわ。もし、高官に貴方の姿を見られたら、陵家の評判をがた落ちよ」
わざと大げさに話して見せると、睡月は青ざめていく。星華はその様子が愛らしくなって、震えて始めた睡月の手を強く握ってあげた。
「これは誰の案かしら?本当はこんな場所怖いのでしょう。こんなに手が震えている」
「それは…」
おそらく睡月に知恵を与えた人物がいるはずだ。だいたい予想はついた。
「睡月、これもやり過ぎだわ。簪の件も、この件も貴方だけの考えで起こしていることではないでしょう?こんなことして、貴方に危険が及んだらどうするの?帰りましょう」
「…わかったわ」
睡月も怖かったのだろう。素直に頷き、星華と繋いでいる手に力をこめた。
しっかり手を握り屋敷へ戻ろうとした時、開かれた香花楼の扉の奥にいた人物に目が留まる。
見覚えのある服が見えた。星華は、睡月の手を咄嗟に離した。
「睡月、ごめんなさい。一人で帰ってくれる?」
「ちょっと…星華!」
星華は客の間をすり抜けて、香花楼の中へ入った。
昼間と言うのに多くの客で溢れており、女たちの化粧の香りが強く鼻がつんとした。
そのまま賑わう人の中をすり抜け、その者の後を追う。その者は二階の一番端の部屋へと入っていった。
二階は遊びだけではなく、高官や商人たちも密談に使うと聞いたことがある。
女たちが料理や酒を運んでいる中に混じり、星華は目立たぬように扉の近くに立った。他の客から見えないよう死角に立ち、中の様子を探る。
たまたま少しだけ開いた扉から、布つきの笠を被った者が男と話している様子が見えた。その者は男物の衣を着ているが、体つきから娘にも見える。
その男物の衣は、雨衣が動きやすいからと藍家で着ていたものだ。その衣は、藍家に置いてきている。
息を静めその様子を見守っていると、強く手を引かれる。驚きで振り返ると、睡月だった。涙目で星華の腕を掴んでいる。
どうやら、一人で帰れなかったらしい。口の前で人差し指を立て、静かにするように指示すると睡月は小さく頷いた。
二人で中の会話に耳を澄ませる。
「上手く行ったのね?」
「はい、部屋に密書を隠しておきました。疑いがかかっているようです」
「これからも見張りを続けて。詳しく様子を教えなさい」
「はい」
その者は男を雇っているようだ。上等な巾着を男へと渡した。じゃりんという音で、大金が入っていることがわかる。
男が巾着の中身を確認すると、その者は逃げるように部屋を出た。
その場から離れようと睡月の手を引いたが、その者は逃げ遅れた睡月とぶつかってしまった。
笠から垂れる布で顔が良く見えないが、
「前をよく見なさいよ」
その何度も浴びせられた甲高い声で正体が良く分かった。
「…凛鳴」
「なぜ、あんたがここに…」
星華はとっさに笠を奪う。吊り上がった瞳が大きく見開ていた。
男装をしていたが、やはり従姉妹の凛鳴だった。酬報を受け取っていた男は、凛鳴の様子を見て部屋から飛び出し逃げ出していった。
なるほど。それなら全て納得が行く。
「凛鳴、この部屋で何を話していたの?あの男は何かしら?」
「あんたに関係ないでしょう。大体、皇守衛の妻がなぜこんなところに、相手にされないからって男をあさりに来たの?」
「ここはただの酒楼でしょ。貴方だって、ここを利用してる。男をあさる気なの?」
凛鳴が簡単に罪を認めるとは思えないが、星華も怯まずに言い返す。
「どうせ、陵家でも相手にされていないのでしょう。何度も殺されかけたとか」
「随分と詳しいのね。うちの屋敷に間者でも入れているの?たとえば先ほどの男とか?」
「はっ、呆れるわ。うちだなんて、あんたなんてすぐに捨てられるわ。陵家に行っても殿下を屋敷に呼ぶなんてはしたない」
かっとなった凛鳴は自ら謎解きを始めてくれた。凛鳴は、翔貴が陵家を訪れていることを知っている。
予想が当たっていると星華は確信した。
燈惺の性格上、陵家の使用人は余計な事を言いふらすことはしない。屋敷の人しか知らない話を知っているのはおかしい。
あの密書は、先ほどお金を渡されていた男が仕組んだものだ。間違いない、凛鳴がその男を雇っていた。
「死神様が、どんなに最低な男だろうとも貴方の夫よ」
「最低だなんて、どうして見たこともないのにわかるの?私の夫を見てから、言ってちょうだい」
星華の言葉に、凛鳴は大げさにお腹を押さえて笑って見せた。
「あんたとうとう目でも可笑しくなったの?都でみんな噂しているのよ。陵燈惺は鬼のような形相で恐ろしく醜いって。戦場から離れて人を殺したりないから、貴方まで殺したいのかもね」
あまりの暴言に、星華は拳を痛いほど握りしめた。
燈惺には何度も殺されかけたが、それは星華の持つ噂と、燈惺なりの理由が重なりあってのことだ。理由もなく人を傷つける人ではないと思っている。
国のために命をかけて戦った彼に対して、あまりの言葉に星華は今までにないくらいの怒りを覚えた。この短い間でも、燈惺の冷たさの裏には揺るぎない正義感があるとわかった。
言い返そうと一歩前に出た時、後ろにいたはずの睡月が隣に立っていた。
「兄上のことを好き放題言って許せないわね」
「妹…?揃ってこんなところに来るなんて、どういう教育されているの?陵家は噂以上の場所なのね」
凛鳴からの皮肉に、酒楼という場所に怯えていた睡月の顔が変わった。
「それはこちらの台詞よ。一つ分かったことがある」
そう叫ぶと、睡月は星華の手を強く握った。
「私は…星華が嫁に来たことを良く思ってなかったけれど、あんたなんかではなく星華が来てくれて、心底良かったわ。貴方のおかげで、初めて心からそう思えた。感謝するわ」
「…睡月」
握られた手には熱がこもっていた。隣の睡月を見ると、顔を真っ赤にして心から怒っている。
睡月からも嫌がらせを受け、酷いこともされたが、その言葉には嘘がなかった。凛鳴に腹が立っただけの言葉かもしれないが、星華の心に深く染みた。
「私より、星華の方がいいなんて…許せない」
凛鳴にとって、星華に劣るということは何よりも屈辱だ。それを言葉にされることを特に嫌う。睡月の言葉は、凛鳴に大きな打撃を与えていた。
「何をしている?」
しかし、その声に星華と睡月の背筋が凍った。
「兄上…」
「…兄上?この人が、死神様…」
凛鳴は始めて見る冷酷な死神の姿に言葉を失っている。
美しい死神は、凛鳴からも魂を抜いたようだ。
今日は普段の武術用の衣ではなく、余所行きの衣を羽織っている。髪を一つに結い上げ、前髪から覗く瞳は美しいとしか言葉が出ない。
その後ろには、星華たち同じように言葉を失っている玄士がいる。
この二人が昼間から遊びでこのような所に来るとは思わない。
おそらく何か大事な密談があったのだろう。睡月は燈惺が任務でこの場所を利用するとわかって星華を連れて来た。
睡月も予想外のできごとがおき、この企みのことを忘れていたのだろう。
固まる睡月と星華と違い、凛鳴の機転は早かった。
「私は藍凛鳴。星華の従姉妹でございます。お兄様にお会いできてうれしいわ。星華が香花楼にいると聞いて、止めに来たのです。人目を避けるために私はこのような格好で…申し訳ありません。星華は昔からどんなに言い聞かせてもこういう所に出入りしていたので…、嫁ぎ先の妹にまで悪い教育をして、従姉妹として謝罪するしかありません」
よくもぺらぺらと嘘が言えるものだと感心するが、燈惺に今の状況を説明するには正解の言葉たちだ。
悪女の噂にぴったりの作り話に、燈惺は無言のままだった。
凛鳴は相変わらずの名演技で従姉妹の罪に苦悩する姿を見せるが、
「妻が迷惑をかけた」
燈惺は凛鳴を一瞥しただけで目もくれない。
その反応に凛鳴は納得いかないようで、星華を鋭く睨んだが、言葉とは裏腹に燈惺のその声に一切の優しさはない。
「玄士、二人を連れて帰れ」
冷淡な表情を浮かべたまま、燈惺はそのまま入口へ向かっていった。