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星を想う者


「叔父上、考えを改めてもらえませんか」


 もう何度、こうして()うただろうか。


 翔貴(しょうき)は床に(ひざまず)き、深く頭を下げ続ける。


 こうして彼が頭を下げる相手は、この国で数人しかいない。そんな必死な願いを訴え続けても、書斎で書物を読んでいる叔父は全く表情を変えなかった。


「何度言えばいい。もう決まったことだ。陛下にも許しを頂いた」


「叔父上は私の想いを知っているはずです。このような…仕打ちを受けるとは、酷すぎます」


 あの惨劇(さんげき)から四年、必死になってあの子を守ってきた。


 いや…あの子に出会った時から、翔貴の行動は全てあの子のためにあった。


「何度も言っているだろう。あの力がある限り、あの子にとって王宮は一番危険な場所だ」


 それは翔貴と結ばせる気はないと宣言されているようなものだった。


「それでも愛してもいない者に嫁がせるなど…。それだけではない、叔父上と(りょう)家には…因縁がある。あの子は何も知らないのに、陵家から恨まれるでしょう」


 こんなにもあの子を想う自分がいるのに、あの子のことを何も知らない男の元へ嫁がせるなど許せない。


 例え、尊敬する叔父に逆らっても止めなければならない。

 

 しかし、何度もこうして人目を避けて、叔父の元へ通ったが叔父の決意は変わらなかった。


「あの子の力が知られたら、王宮の者は利用する。私達のためにも、それは避けなければいけない」

 

 あの子の力はあってはいけないものだ。誰にも知られてはいけない。長い間、慎重に隠し続けてきたからこそ、なぜあの男へ嫁がせるのか理解ができなかった。


「私は時々、叔父上が分からなくなる。あの子を秘密を知った時から、叔父上だけを信じてきましたが、王宮から遠ざけるのは…あの子のためだけですか。それとも、自分のためですか?」


 普段は穏やかな叔父の表情が変わった。


「どういうことだ?私があの子の力を使って、陛下の座を奪うとでも…」


「それは…」


 翔貴でさえ、わからない。


 今この国の王座を奪えるものは、翔貴も含めて数人いると言っていいだろう。翔貴と同じように、目の前の叔父もそんな想いを持ってないと思っていたが、それは本人にしかわからないことだ。


 叔父は端正な顔で、翔貴を真っ直ぐ見つめる。相変わらず、清らかな美しい目をしている。

 

 この人を疑う日が来るとは思わなかった。


「たとえ血の繋がりがなくとも、貴方は私と同じようにあの子を大事に想っていると思ってきました。今まで必死に隠してきたのは、あの子のためだと。しかし、こたびの縁談はあの子を巻き込むために行かせるようなものだ。なぜ、叔父上はあの子が苦しむような道ばかり…選ぶのですか?」


「翔貴!言葉を慎みなさい」

 

 叔父の怒りを含んだ声に空気が変わる。翔貴は無性に泣きたくなった。


「私は…あの子のためなら、自分の立場だって捨ててもいいのです」


 嘘など一つもない。


 あの子を守るために築いてきたものも、あの子と一緒にいるためなら簡単に捨てることもできる。


「賭けだとしても、私はあの男を選んだ」


 それなのに、叔父からほしい答えが返ってくることはない。長年の想いが、運任せの賭けなどに負けたなど思いたくない。両手で拳を握りしめ力を込めた。


「どんなに(みじ)めであろうと…私は諦めません」


 叔父を真っ直ぐ見据え、翔貴はそう強く言い切った。


「翔貴…待ちな…」


 背を向け部屋から出て行く翔貴の背中を慧秀(けいしゅう)は何とも言えない想いで見送った。

 

 血の繋がりがある甥の中でも、翔貴は特別だ。


 決して知られてはいけない秘密を彼に知られてしまったことは、唯一の幸運だった。しかし、慧秀は翔貴ではなくあの男を選んだ。


「お前の気持ちは良く分かっているが…すまない。約束したのだ。これで運命に(あらが)ったつもりだが、それでもあの子がお前を選んだらその時は運命に従おう」







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