ほしをさがすたびびと
ある夜のことでした。
ごおう、ごおうん
おおきな音にとびおきてまどから外を見てみると、夜空からほしがおちてくるではありませんか!
みるみるうちにまばゆくなるなる光を、しぱしぱとまばたきをしながら見ていると、ながれぼしは丘のほうへおちたのでした。
「たいへんだあ!」
いそいでひろいに行かなくっちゃあ!
おほしさまはなんでもおねがいをなんでもかなえることができます。でもかなえてくれるおねがいは、たったのひとつきりなのです。
だれかにひろわれてしまったら、もう、おねがいをかなえてもらえません。
だからいそいでひろいにいかなくっちゃ!
いそいで、いそいで。
ひつようなものはなんだろう?
食べものはだいじ。
たなをあけてパンをつつんで、チーズも持っていこう。
さむくなっても毛布があればだいじょうぶ。
それからそれから、夜道も歩けるようにランタンを。
あれも、これも、あとこれも。
これだけあったらもうだいじょうぶ。
たくさんものをつめこんだバッグはもうパンパンにふくらんでいます。
「せーの、しょい!」で持ちあげると、たびびとはおうちをでました。
いそがなくっちゃあ、いそがなくっちゃ!
ながれぼしがおちた丘をめざしてあるいていくと、森のまえでネズミの一家にであいました。
「ネズミさんおはようございます」
「たびびとさん、おはようございます」
いちばん背がたかい、おとうさんネズミがあいさつをしてくれました。
だけれど、なんだかみんなでしょぼくれていて、げんきがありません。
「いったいどうしたんですか?」
しんぱいに思ってたずねると、おかあさんネズミがこたえます。
「食べものがもうないのです。だから、ながれぼしに食べものをもらえるようにおねがいにいくところだったのですが……」
みんなもうおなかがすいて動けなくなってしまったようです。
いちばんちいさな子ネズミは、「ちゅうちゅう」泣きだしてしまいました。
「それならねずみさん、これをたべてください」
たびびとはおうちからもってきた、たべものをぜんぶネズミの一家にあげてしまいました。
からだのちいさいネズミさんなら、おなかいっぱい食べられるでしょう。
「ありがとうございます、ありがとうございます」
おにいさんネズミもおねえさんネズミも、みんなで「ちゅっちゅっちゅっちゅ」とおおよろこびです。
「それじゃあさようなら!」
ながれぼしが落ちた丘はまだとおくです。
いそがなくっちゃあ、いそがなくっちゃ!
森のなかを、またしばらく歩いていると、こんどはネコさんとであいました。
「ネコさんこんにちは」
「たびびとさん、こんにちは」
ネコさんは毛がほそくなったおばあちゃんでした、木の下にまるくなっています。
「そんなところでどうしたんですか?」
しんぱいに思ってたずねると、ねこのおばあさんがこたえます。
「としをとったからさむくてたまらないんだ。だからながれぼしにあたたかくなれるようにおねがいにいくところだったんだがねえ……」
さむくてさむくて動けなくなってしまったようです。
びゅうと吹いた風に、びんとひげが伸び、ネコさんはブルブルとふるえはじめてしまいました。
「それならネコさん、これを着てください」
たびびとはかばんから毛布をとりだすと、ネコさんのあたまのうえからかぶせてあげました。
ネコさんはすっぽり毛布につつまれています。これならもうさむくはないでしょう。
「ありがとう、ありがとうさん」
おばあさんネズミは「なあ、なあう」と、とってもうれしそうです。
「それじゃあ、さようなら!」
ながれぼしがおちた丘は、まだまだとおくです。
いそがなくっちゃあ、いそがなくっちゃ!
森をぬけたたびびとが、みずうみのそばを歩いていると、こんどはカラスさんとであいました。
「カラスさんこんばんは」
「たびびとさん、こんばんは」
カラスさんはまっくろい羽をひろげて、みずうみをのぞいては、ためいきをついています。
「どうして、ためいきをついているんですか?」
しんぱいに思ってたずねると、カラスさんがこたえます。
「見てのとおりぼくのからだはまっくろだ。夜になったらだれにも見つけてもらえない。ほら、こんなに月があかるいのに、ぼくのからだはみずうみにうつらない。だからながれぼしにからだをあかるくしてと、おねがいにいくところだったんだけど……」
夜になったから、あぶなくて飛べなくなってしまったようです。
まっくろな羽の先で、ちょんちょんとみずうみをつつくカラスさんは、ふるりふるりと首をふりました。
「それならカラスさん、これを使ってください」
たびびとは暗い夜道をてらしていたランプをカラスさんにわたしてあげました。
ランプにてらされたカラスさんのからだはまるで昼間のようにつやつやです。これならきっと夜空を飛んでいたって見つけてもらえることでしょう。
「ありがとう! ありがとう!」
カラスさんは「くわあっ、くわあっ」と、とっても楽しそうです。
「それじゃあ、さようなら!」
ながれぼしが落ちた丘は、まだまたまだまだとおくです。
いそがなくっちゃあ、いそがなくっちゃ!
それからもたびびとはながれぼしをさがして、たびをつづけました。
いくさきでこまっているひとを見つけては、そのたびにバッグからどうぐを出してたすけてあげました。
あんなにパンパンだったバッグの中身はどんどんへって、ながれぼしが落ちた丘が見えるころにはぺったんこになっていました。
そして、そのからっぽになったバッグさえ、とうとう、たびびとは、手ばなしてしまったのです。
もう、たびびとは、なにひとつ持っていません。
いそいで、いそいで
息を切らせて歩きつづけたたびびとは、とうとう丘のふもとにたどりつきました。
ながれぼしはいったいどこでしょう?
あっちかな?
こっちかな?
あ、見つけた!
丘の上の木の根元がきらきらかがやいています、ながれぼしの光にまちがいありません。
「やったあ! やっとおねがいをかなえてもらえる!」
うれしくなったたびびとは、はしりだしました。
あと少し、いそがなくっちゃあ、いそがなくっちゃ!
とうとう丘のてっぺんでながれぼしを見つけました。
たびびとはさっそくおねがいをかなえてもらおうとおもいましたが、なにやらようすがおかしいみたい。
「うわーん、うわーん」
おおきなこえで、ながれぼしさんは泣いていました。
「ながれぼしさん、どうして泣いているんですか?」
しんぱいに思ってたずねると、ながれぼしさんがこたえます。
「わたしはあしをすべらせて夜空からおちしまったの。じめんはかたいし、ひとりぼっちでとってもさみしいから、お空へかえりたいの」
たびびとはこまってしまいました。
もうたびびとはながれぼしをたすけてあげられるどうぐをもっていないからです。
「うわーん、うわーん」
ながれぼしさんは泣きつづけています。
ぽろぽろぽたぽた、ぽろぽろぽたぽた
つぎからつぎへと、なみだがこぼれておちていきます。
「なかないで、ながれぼしさん」
たびびとまでかなしくて泣いてしまいそうでした。
だから、たびびとはだいじなことを決めたのです。
「だいじょうぶ、ぼくがお空へもどしてあげるから!」
ながれぼしさんをかかえると、たびびとは木をのぼりました。
よいしょ、よいしょ。
ひんやりつめたい木の幹にすべりおちそうになりながら、たびびとは、いちばん上の枝までのぼりました。
枝にすわると、たびびとはながれぼしさんをだっこした両手をたかくあげます。
この世界でいちばん夜空にちかいばしょで、たびびとはたったひとつだけのおねがいをしました。
「ながれぼしさん、どうぞ、おそらへ帰ってください」
ぱああ
目もあけてられないほどに、ながれぼしさんが、かがやきます。
「ありがとー、たびびとさん、ほんとうにありがとー」
ながれぼしさんはなんどもおれいをいいながら、びゅーんと、とおいとおい夜空へ飛んでいきました。
「ながれぼしさん、さようなら」
まっくらになってしまった木の上で、たびびとはながれぼしさんをみおくりました。
夜が明けると、たびびとは歩いてきたみちをもどって家に帰りました。
からだはながいたびのせいでもう、へとへとです。
休もうと思いましたが、家にはベッドもイスもありません。ぜんぶんぜんぶ、あげてしまったからです。
どうしようとこまっていると、こんこんと、とびらをノックする音が聞こえました。
「どちらさまですか?」
「たびびとさんにたすけていただいたものです」
とびらを開けるといつかのネズミの一家がごちそうを持って立っていたのです。
それだけではありません。
ねこのおばあさんはふかふかのふとんを、まっくろいはねのカラスさんはきれいなろうそくを、ほかにもたびびとがたびのあいだでたすけたひとたちが、みんなそれぞれぞにお礼を持ってきてくれているではありませんか!
みんなは口をそろえて言いました。
「たびびとさん、これを使ってください!」
家の中は次々にはこびこまれるものですぐにいっぱいになりました。
だけどふしぎなことがあります。
「みなさんはどうしてこの家がわかったんですか?」
そうたずねると、みんなはそろってうえを指さしました。
窓からかおを出して、たびびとが夜空を見上げると、そこにはおほしさまがきらきらと、かがやいていました。
「あのおほしさまがおしえてくれたんです」
たびびとがお空へ帰したあげた、あのながれぼしさんにまちがいありません。
「みなさんどうもありがとう!」
たびびとはとってもしあわせなきもちでいっぱいになりました。
きょうもあしたも、きっとたびびとのあたまの上にはおほしさまが、かがやいていることでしょう。
おしまい
童話は、はじめて書いたけれどなかなかおもしろい。
漢字の制限がある以上、音の重複や表現をどう簡易に表現するか工夫のしがいがある。勉強になりました。