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ホールネット家へ その一

 魔力適性は後天的なもので上げることも可能だが、先天的なものの影響も大きく、例えば魔力適性がゼロ。感じることさえできない父と母から生まれた子供は、絶対的に魔力適性がゼロ。僕の母と父は魔力適性が両方ともにゼロ。しかし、何故かそこから生まれた僕は違った。

 ゼロに近い数値ではあるものの、ゼロではなかったのだ。僕はある意味、奇跡を起こしている。


 しかし、僕の努力は報われることは無い。


 魔力適性がゼロの親から生まれた、ゼロに近いけれどゼロでははない子供。そう。ゼロではないがゼロに近い。奇跡は起こしているものの、才能は無いに等しい。なのに、何故僕は魔法が、しかもとんでもなく強力な、威力のレベルで言うと威力7程だろうか?最大威力がが11なので、中の上くらいだが、レベル7の風魔法を使えるのは、Aランク魔術師クラスでやっと出せるかくらいだろう。


「もしアンタの話が本当だとするならば、この大陸が原因の可能性はあるわ。例えばだけど、この赤い粒子に適応、いえ、寧ろ粒子を摂取することで強くなるとか。その辺りね」


 アリガさんは洞穴の中、焚火の炎を光代わりに、本棚に綺麗に揃えられている本を何冊か取り出し、獲物を探し求めている腹を空かせた狼の様な目で、じっと本を眺めていた。一文字一文字をじっくりと目で追い、ページの端まで行ったらページをめくりまた目で文字を追う。焚火のぱちぱちという音を聴き、揺らぐ炎を見ていると、ゆったりと安心できるというのは、この大陸でも変わらない様だった。僕は炎も見つめながら、自身の記憶を、鍵が厳重にかけられた、僕が切り離そうとしていたあの記憶の鍵を、外した。


 毎日学校に行き、げた箱を開けると、そこには動物の死骸、中に刺繍針が仕込まれた上履き。果てには攻撃魔法を封じ込めた術紙(じゅつし)まで。それを切り抜け教室に入ると真っ先にペンや靴。剣術の授業がある日は実習用とはいえ先端が尖ったダガーやロングソードが飛んでくる。彼らにも良心はあるらしく、基本ギリギリ当たらない所へ投げてくるが、まれに、というか三日に一回くらいのペースで当たってしまう。ダガーなんかが当たった日には登校後速攻保健室へなんてこともある。それを何とか超えて授業が始まる。

 授業中は幸い何もないけれど、休み時間になった途端に再開される。それを繰り返し繰り返し、僕の一日は終わる。そんな日々を3年。学校は7年制。あれを七年間。耐えられないわけでは決してない。しかし、正直にいうと、あんな仕打ちを受けたくはない。それに、7年間のいじめを受け続ける意外にも、7年間いつ魔法が使えるようになるだろうかと焦りながら毎日を過ごすことにもなる。


 嫌だ――


 その言葉だけが、僕の頭を埋め尽くす。


 何故だかはわからないが、今はもう、そんなことはもうどうでも良いと思えてきてしまった。無実でここに送られてきたことは、ある意味で僕にとっては幸運なのかも知れない。きっと、僕のこの体の異常から推察するに、僕は後数日そこらの命なのだろう。でも。僕はもう。そんなことはどうだっていい。明日死ぬかもしれないという恐怖は、僕にはなかった。寧ろ、この短い期間を有意義に生きたい。


「さて、と」


 アリガさんは本を閉じ、積み上げていた本たちを元の場所へと帰す。そういえば、なぜこんなところにこんなきれいな本と本棚があるのだろうか。アリガさんが作った物なのか。それとも、他にも人がいるのか。魔族は知性を持っている種類もいると、本で読んだことがある。もしかしたらその魔族達が作ったものなのかもしれない。そう考えると、なんだか魔族という存在への恐怖が和らぐ。恐ろしい外見の魔族がのこぎりで丁寧に木を伐り、それをさらに削り、そこに穴を空け、杭を打って、うるしとかで仕上げる、そんなところを想像していた。


「それじゃあ、ロビルガ。今日はとりあえず休むとして、明日、何する?」



 * * *



 ロビルガ・ヴォリプスの……ロビー君の失踪から、二週間が経過した。捜索隊が動くはずなのに、全く動いている様子はない。ロビー君の失踪について、全く情報がないので、何もわからない。

 失踪した理由もなければ、どこに行ったかさえわからない。ロビー君のお父さんもお母さんも離れた場所で暮らしているので、連絡を取ることも、何もできない。幸い、以前ロビー君にどこに住んでいるのかを聞いたことがある。ここから馬車で一週間ほどかかる、ハイビという農村。もしかしたらそこに、ロビー君がいる可能性があるので、私はそこまで行ってみることにした。

 しかし、そこまで馬車を出すとなるとそれなりにお金がかかる。馬車の借賃も食料代も。馬車くらいなら自分で動かせるので、人を雇う必要はない。

 しかし、問題は道中の獣や魔物だ。近年どうも魔物が力を増しているらしく、自然に生息している動植物がその影響を受け人里に降りてきたり、薬や花の価値が少し高騰している。私はこんなでも魔術師育成機関ast(アスタ)の優秀な魔術師の方々が運営や先生をしている世界中の魔術師学校に所属している。

 それにアスタリア王国立アスタリア魔術学園3年生、466人中7人しかいないB級魔術師の資格を持っている。私たちの一つ上の学年でさえ20数人しかいない。そこそこ凄い人間らしい。それでも、流石にひとりで、獣はまだしも、魔物の相手をするのは厳しいものがある。ガラヴリザードやローストマンなど、危険度6程度なら問題はないが、キヴァルガオークやソラヴィワーフ、フロックゴブリンの大軍など、危険度7、8辺りの魔物との戦闘は厳しい。


「もう少し色々考えないと」


 多分、私が行うであろうこの事に力を貸してくれる人はいないだろう。しかし、必ず。やらなきゃいけない。ロビー君が私をどう思っているかは知らない。鬱陶しく感じているのかもしれないけれど、私にとっては、大切な友人の一人だ。

 私は今日もノートにロビー君に関しての分かったこと、そしてロビー君の実家に向かうにあたっての準備物などについてを書き込みふっと息を吐いた。現在わかっていることは、捜索隊が出されていないことから、失踪届が出されていない可能性がある事。しかし、それを地域警備隊の役所へ伺ったところ、既に出されていた。なのに捜索隊が出されていないという違和感。いじめが関係している可能性。いじめについて聞くことは簡単だ。一番彼を嫌っているアイラ・ホールネットさん。彼女に問いただせば良い。しかし、ロビー君が失踪したであろう日時から、彼女は学校に来なくなってしまっていた。

 とりあえずもう他に情報源がないので、関連性が高いであろう、アイラさん宅に訪問することにした。


「大きい……」


 流石両親がSSランク魔術師、母エリグ・ホールネットと父ライザック・ホールネットの娘。全魔術師が名前も顔も知っているだろう魔術師一家の家だ。アスタリア城とまではいかずとも、それと張り合えるだろう。それ位の大きさだ。確かホールネット家はastとは別に、独自で組織を作って活動しているのだっけ。その組織の人間と、百数人の召使いや侍女や執事が住み込みで働いているのだ。とんでもなく大きいのも納得できる。


「あの……」


 私はとりあえず、門の前にいる騎士らしき人に話しかける。


「どうかなさいましたか?」


 騎士の男性は恭しい仕草で私に言う。アーマープレートを装着しているにも関わらず、音一つ出さずに気品ある笑顔で首をかしげて見せた。思わず息を飲んでしまう。見惚れてしまった。そして緊張してしまった。ただの門番に、品性で負けてしまうなど、女として、そして程度の良い魔術師としてあってはならない。いや、彼は優秀過ぎる門番だ。


「アイラ・ホールネットさんと同じ学校の、同じクラスの者です。今日は、ありゃりゃひゃんに――」


 こんな時に私が何よりも得意である舌足らずが発動してしまった。顔が熱くなるのを感じる。咄嗟に俯き両手で顔を隠す。


「どうかなさいましたか!」


 門番の男は焦った様子で私の元へ駆け寄った。こんな時でも音は立てない。どうやら男は私が舌を盛大に噛んで怪我をしたと思っているのだろう。確かにとんでもない重症だ。私の心はドロドロに溶けて蒸発してしまいそうになっていた。このまま身も心もスライムが炎属性魔法を喰らった時の用に蒸発してしまいたい。そう思うけれど、ここで蒸発してしまっては、ロビー君を見つけ出すことは出来ない。


「アイラさんを出していただけまひぇんか!」


 ……もうおしまいだ。

お読みいただきありがとうございます。


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