「任務」
翌日天気は快晴。3人は都市の中心街にあるショッピングモールで待ち合わせをしていた。
「おはよ〜!」
集合時間より30分も早く着いてしまった藍羅は遠くに見えた二人の姿に待ちきれず声を上げた。
「藍早くない?」
「あ、本日はよろしくお願いします」
察した薫は藍羅に深々と頭を下げる。
「二人が遅いんだよぉー。 さ、行こうか」
そんな二人に藍羅は唇を尖らせながらそう言うと初対面の薫の手を掴むとすたすたと中へ入って行ってしまった。
「え、ちょちょ……、浅野く──ん……」
薫は半ば引きずられる様にショッピングモールの中へと姿を消した。ソレを眺めながら浅野は3人でショッピングモールを訪れて良かったと思えた。というのも、あんなに嬉しそうな藍羅を久しく見ていなかったからだろう。
──
時刻はあっという間に4時を迎えた。一行はショッピングモール外周の歩道を歩いていた。
「ハァ〜、疲れた」
ぱんぱんに詰まったビニール袋を両手に持った美柑は溜め息混じりにそう呟いた。
「そぉ? 私は結構楽しかったよ。 ね、薫」
「サラの言う通り私は楽しかったなぁ。 二人とも今日はありがと」
前を行く藍羅はこちらを振り向きながらそう言った。横を歩く薫の方はというと、藍羅と試行錯誤をしてようやく決まった上下セットの内の一つを纏っていた。袖が肘まであるTシャツに
ダボっとしたデニムパンツ、加えて新調した白い靴は通気性も良さそうで夏にぴったりの服装になっていた。
「そぉだ!」
突然、前を行く藍羅が何かを思いついた様に声を上げた。袖無しのシャツにスカートとこちらも涼しそうだ。
「どうしたのサラ?」
「来月の都市間観光ツアーさ、このメンバーで行かない?」
「あぁ、良いんじゃない?」
美柑はそう言うと薫に意見を求めようと彼女の方に顔を向けた。
「くぁwせdrftgyふじこlp!?」
((為替ドリフトG不二子LP!?))
薫の絶叫じみたリアクションに二人は心の中で聞き返してしまった。
「何ソレ?」
はっと薫は我にかえり2人に質問した。
「学校行事の一つで、下層都市の47ある都市を一か月間自由に観光する、いわば社会見学兼修学旅行みたいなものよ」
「へぇー、そんなのもあるんだ」
薫曰く、転校続きだった為班行動の様な親密関係を要する行事は学校側から規制せれていたらしい。
雑談を交わしながら歩いている一行は人通りの少ないT字路──というよりかはト字路──にさしかかっていた。時刻は4時15分くらいだろうか。
──
時間は少し遡り3時過ぎ。
白いパーカーを羽織りフードを被った人物が市街地の一角にある長い商店街通りを走っていた。人通りの多い中を走り抜けるその人物は、走りながら携帯を耳に当てた。
「先生、どこにも居ないですよ?」
「もっとよく探してよ? アレが外に出たらヤバいの知ってるでしょ。もう出てるケド」
「いや、先生が吹っ飛ばしたからでしょ!?」
「そんなつもりは無かったんだけど、向かって来たからぁ」
「輸送中に脱走するとか有り得ない」
「まぁ、それだけ知性があるって事だね」
「それをボコすか殴って良かったんですか?」
「……絶対俺が上からボコすか怒られる」
「私は知らないから」
白いフードの彼女はそう言って通信を切る間際「見つけたら教えてね〜」と聞こえたが無視して切断した。そして意識を外に向けた時だった。
ドォンという音と共に数キロ先の辺りで土埃が舞った。ここら一体はコンクリで固められた道なので普通であればコンクリートの下の土が舞う事など有り得ない。
そう、それは通常では起こり得ない。
彼女は音が聞こえた瞬間、土煙が上がる前に老舗の屋根に飛びのると駆け出していた。簡素な住宅街にあんな音は似合わないからだ。
音と振動でドヨめいた群衆は少ししてさも何も無かったかの様に動き出す。
「先生、ヤバそうな音がしたので向かいます」
彼女は伝言を残すと通信を切った。