第95話 新米貴族は自我を奪い合う
その後も血みどろの殺し合いが繰り広げられた。
オレがエリスの右手を握り潰せば、奴はオレの腹を素手で貫く。
しかも内臓を引きずり出しやがった。
いつの間にか再生したエリスの目は、しっかりとオレを見ている。
狂気と苦痛に満ちた眼差しだ。
臆病者のお人好しだったくせに、必死になって食らいついてくる。
その執念が厄介で鬱陶しい。
だから僕は大剣を掲げて、力いっぱいに振り回した。
斬撃はルードの胴体を上下に分断する。
「おっ」
ルードの呆けた声と顔。
戦い慣れているのに、なぜそんな反応をするのか。
僕の底力に驚いたのか。
それはそうだ。
僕だって意味が分からない。
勢いだけで戦っている。
これは夢か現実か。
自分は一体何者なのか。
ルードとエリスだ。
その境目が溶け合っている。
殺し合う僕達は誰なのだろう。
きっと向こうも分かっていない。
もはやランクレイとの決闘なんざどうでもよくなっていた。
オレ達は互いの存在をかけて張り合っている。
すべては意地と誇りだ。
周りから見れば下らない。
だが、その下らないことに魂を捧げている。
「さっさと死ねよ」
大剣を地面に突き刺してルードが言った。
「嫌だ」
倒れた僕は、分断された下半身を引き寄せながら答える。
傷口同士が繋がって徐々に再生されていく。
いつ倒れたか覚えていないが、倒れているのだから倒れたのだ。
ぐらつく下半身を叱咤して立ち上がる。
右手には古びた鋏……いや、これじゃあ駄目だ。
ルードの持つ大鎌には勝てないだろう。
だから僕は……そう、大型の鉈を握っていた。
刃が非常に分厚く、先端にかけて緩く湾曲している。
人間の首でも簡単に刎ねられそうだ。
僕は鉈を持って世界最悪の狂戦士と対峙する。
「ルード!」
「エリス!」
奴が僕の名を呼んだ。
その顔には怒りと喜びと殺意と憎しみと親愛が溢れていた。
あらゆる感情を抱えて僕を見ていた。
大鎌が揺れて鈍い光を反射する。
そこに僕の顔が映る。
木と鉄の混ざった醜い仮面を被っていた。
「お前を」
「殺す!」
僕とルードは叫ぶ。
どちらともなく駆け出した。
防御も回避も無視して、ただ全力で武器を叩き付ける。
閃いた大鎌が脇を潜って片腕を斬り飛ばすと、さらに首筋へ食い込んできた。
鉈が鎖骨を叩き割ると、そのまま心臓まで一気に断ち割った。




