第91話 新米貴族は浸蝕し合う
オレはエリスの行動を嘲笑した。
指を差しながら容赦なく非難する。
「それで強くなったつもりかよ。笑わせんな」
「ああ、僕は強くなった。これが無意味な行為だと思うか。本当は分かっているんじゃないか」
オレは返答代わりに突進し、鉈の突きを放った。
エリスはひらりと避ける。
奴の身体が半回転して、鋭い角度で蹴りを打ってきた。
今度の反撃はオレも読めていたので、幾分かの余裕を持って回避する。
エリスの動きがだんだんと加速しているが、対処できないほどではなかった。
「僕達の精神は表裏一体。その境目が曖昧になって、互いの要素が混ざり始めている」
「何度も言うな。知っている」
縦横無尽に鉈を振るって攻め立てる。
エリスは回避と反撃を織り交ぜながら対応してみせた。
それでも攻撃が命中して、刃が奴の四肢や胴体を削いでいく。
血が滲むも、傷はすぐに塞がってしまった。
畜生が。再生能力も奪われている。
「仮面はルード・ダガンの象徴だ。その常識外れな力を宿している」
こちらの心を読んだかのようにエリスが言う。
いや、もう実際に読んでいるのかもしれなかった。
今はどちらが主導権を握っているのか。
よく分からん。何がどうなっている。
果たしてこれは現実なのか。
人格の拮抗が生み出した幻覚ではないのか。
ふと観客席を見ると、人々は拳を突き上げて熱狂していた。
まるで地響きのような音の暴力を生み出している。
「お」
観客に気を取られたせいか、エリスの手刀が右頬を掠めていった。
熱い痛み。
出血が首元までを濡らしていく。
耳まで削ぎ落とされたかもしれない。
まあ音は聞こえるから問題ないだろう。
「赤の他人である准伯爵ですら、相当な効果があった。本質的には同一人物の僕が被ればどうなるか。言うまでもないだろう」
「……この時を狙っていやがったのか」
「違う、まったくの偶然だ。ただ暴走を止めたいと祈ったらこうなった」
そう答えたエリスの心臓を鉈で貫く。
円を描くように動かしてくり抜こうとしたが、エリスが飛び退いたせいで刃が外れた。
ただし、貫いた箇所は肉がべらべらと剥がれている。
そこから絶え間なく出血しているが、やはり奴が死ぬことはないだろう。
(ふざけるなよ。なぜ互角の戦いになっている?)
狂おしいほどの怒りが思考を支配する。
エリスごときの精神力で揺らぐほど不安定になっているのが気に食わなかった。
オレの影響を受けることを恐れていたくせに、実際は逆手に取っている。
小賢しい野郎だ。
よくやったいや違うぶち殺したくて堪らなかった。




