第9話 新米貴族は頭を悩ませる
それを聞いた僕は硬直する。
子爵の言葉を脳内で反芻して理解に努める。
最初に抱いたのは困惑だった。
様々な疑問が浮かぶも、矢継ぎ早に訊くのは礼を欠く。
話を整理するには、まず落ち着くのが先決だろう。
深呼吸した僕は、微かな頭痛を感じながら質問した。
「そ、それは一体どういうことですか?」
「私も先ほど知ったばかりだ。今も調査を進めているが、分かっている範囲で君に伝えよう」
苦い顔の子爵は僕をテーブルに促す。
互いに向かい合う形で着席するも、なんとも気まずい空気が流れた。
子爵にとっても想定外の事態だったのだろう。
いつもは冷静沈着な彼女だが、心境が表情に出ている。
それだけ悪い状況ということだ。
手を組んだ子爵は本題を切り出す。
「守護担当となったのはロードレス領だ」
「……あの"悪徳の荒野"ですか」
僕の反応に子爵は無言で頷く。
ロードレス領。
その言葉は、王国の最西部にある荒野地域を指す。
端的に述べると、国内最悪の領地であった。
いくつかの都市が点在し、どこも治安が最悪なのだ。
赴任した領主は残らず抹殺されており、三十年ほどは領主が不在となっている。
国王が放棄しており、他の貴族達も見て見ぬふりを決め込んでいた。
関われば厄介なことになると確信しているためだ。
領土を押し付けられることになるかもしれず、話題にも出そうとしない。
とにかく誰も触れたがらない土地であった。
歴史的な背景を鑑みると、ロードレス領は間違いなく王国の一部だ。
しかし実情だけ見れば、明らかに独立領と化している。
都市ごとに自治体系が形成されているらしく、歪ながらも都市国家のような様相を呈していた。
領内各地は犯罪者の巣窟となっている。
あらゆる違法行為が容認されて、税の概念も消滅していた。
おまけにどのような商品を扱おうと咎められない。
知恵の働く商人の中には、その特性を利用して儲けを伸ばす者もいた。
他国の秘密組織が支部を置いているという噂もある。
そういった状態が蔓延しているため、通称が"悪徳の荒野"なのだ。
さらには領内南部には魔獣の生息する森、西武と北部には他国がある。
治安以外にも複数の危険な要素が混在している。
なぜ破綻しないのか不思議になるような悪所。
それがロードレス領だった。




