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狂戦士は平凡な貴族になりたい ~新米領主の領地開拓スローターライフ~  作者: 結城 からく


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第89話 新米貴族は問答する

「はは、ははは……」


 オレはその光景に笑う。

 とてもおかしい。

 究極の矛盾が、そこに出現していた。


 観客席はいつの間にか再び静まり返っていた。

 途方もなく広い闘技場にオレの笑い声だけが虚しく響く。


 やがて笑いを止めたオレは真顔で尋ねる。


「おい」


「……何だ」


「とぼけんなよ。これは一体どういうことだ。幻術なのか」


 厳しい顔のエリスを追及する。


 この状況はランクレイが仕掛けたのか。

 或いは彼女の味方が張った罠か。


 オレの精神力なら幻の類を弾けるはずなのだが。

 気の緩みを突かれたとかもないはずだ。

 つまり幻術による惑わしではなかった。


 第三者の幻術ではないとすれば、オレ自身の問題となる。

 すなわち精神の揺らぎだ。

 それが現実世界にまで影響を及ぼしているのだった。


 だから別人格が目の前に立っている。

 対面できないはずのオレ達が同時に存在している。


「僕は、主導権を取り返そうとしただけだ。准伯爵を殺してはいけない」


「お前の大好きなラトエッダを嵌めたクソ女だぜ。それでも庇うのか」


「決闘の勝敗はついた。あえて殺すことはないはずだ」


 エリスが懸命に主張をする。

 それを聞いたオレはこれ見よがしに鼻を鳴らした。

 軽蔑の眼差しをエリスに向ける。


「甘いなあ。お前はいつも甘い。甘い甘い甘い。甘すぎてヘドが出そうだ」


「何を――」


「エリス。お前は生粋のクズ野郎だな。そうやって善人ぶって満足しているのか。いい身分じゃないか本当に」


 オレは嘲笑を舌打ちで中断すると、持ち上げた指をエリスに向けた。


「忘れたのか。お前の起源は、このオレだ。精神を分離したのはお人好し野郎じゃない。世界最悪の狂戦士だった!」


「…………」


「どれだけ姿が変わってもお前はルード・ダガンだ。本当はランクレイを殺したくて堪らないんだろう? 気取ってんなよ。その欲望を表に出しやがれ」


「違う。僕は、違うんだ……」


「それなら証明してみせろ。オレを押し退けてランクレイを助ければいい。暴力で正義を勝ち取る。単純な話だ」


 オレは言葉を重ねていく。

 ふらついたエリスが苦悩を見せた。

 無論、それを気にして妥協することは一切ない。


「救うか殺すか。お前の全力を見せてみろ」


「…………分かった」


 長い沈黙の果てに、エリスはようやく頷いた。

 そして左右の手で拳を作ると、身を落として構える。


 それを目にしたオレはさすがに吹き出した。

 腹を押さえなが息を詰まらせて爆笑する。


「おいおい、素手でやる気かよ! 勝ち目がなくて絶望したんだろうが、せめて武器を――」


「怖いのか」


 エリスの一言が鼓膜を叩いた。


 オレは硬直して笑いを消す。

 張り詰めた殺意を抑え込んで奴を睨み付けた。


「何だって」


「僕に負けるのが、そんなに怖いのか」


 エリスの野郎が噛み締めるように言う。

 そう、言いやがった。

 誰に向かってだ。

 このオレだ。

 他に誰もいないのだから。

 あの軟弱で、何もできない弱虫が、狂戦士ルード・ダガンに向かって……。


「――上等だ。この際だから八つ裂きにしてやるよ」

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