第77話 新米貴族は事態を終息させる
「前回は、頭を狙って即死させようとしたなァ……だから、今回は脚を狙ったんだろう? まあ、無駄な努力だった、わけ、だが」
「ぶ……っ、んぶぇ、あぇっ」
毒王が苦しげにもがく。
必死に首を回そうとするので、腸による首絞めを強めて妨げた。
頭を動かせない毒王は、震える手で死に懐を探り始める。
(何かするつもりか)
素早く察知したオレは、壊死した足で毒王の手を蹴り飛ばした。
地面を滑っていったのは、古ぼけた手鏡だ。
地面に当たった衝撃で割れている。
あれは毒王の奥の手だ。
追い詰められた時に使うための切り札である。
使い捨ての道具で、手鏡越しに越しに見た相手を殺すためのものだった。
死角に回った相手を殺すための策だが、これくらいは簡単に見切れる。
ただの悪あがきに等しかった。
ほどなくして毒王は気絶する。
オレは首絞めに使った腸を腹に押し込むと、早くも感覚の戻ってきた両脚で立ち上がった。
毒王は接近されると弱い。
その接近がひたすら困難なわけだが、常に再生し続けるオレは骨格まで侵蝕されるのに猶予がある。
そもそも毒王が感知できない速度で動けばいい話だった。
目潰しの手段だっていくらでも存在する。
とにかく、敗北はありえない相手なのだった。
これで三人の王を無力化した。
速度を優先したのであまり面白味がなかったが、多少は満足している。
(これでとどめまで刺せたら最高なんだがな……)
燻る衝動を自覚しつつも、さすがにそれは我慢する。
こいつらは揃って異常者であるが、必要な人材である。
貴族になった以上、こういった連中をも利用しなければならない。
オレは貴族として国の行方を調整するつもりなのだから。
「…………あ?」
思考に奇妙なずれがあった気がする。
首を傾げたオレは、すぐさまその原因に思い至る。
たぶんエリスの野郎だろう。
あいつの思考が混ざり込んできたのだ。
いつの間にか境界が曖昧になっていたらしい。
珍しいことだ。
エリスが主導の時に、オレが割り込むことは多い。
しかし、その逆は滅多に起きないのである。
(精神の分離が甘くなっているのか?)
ルード・ダガンは禁術によって二重人格者となった。
何かあるたびに裏返って主導権を奪い合ってきたが、それは決して正常な状態ではない。
一つの魂につき精神は一つ。
それが原則だというのに、オレ達は真っ向から破っている。
いずれ破綻するのではないかと懸念していたが、既にその兆候が現れているようだ。
そんなオレの思考を悲鳴が遮った。
見れば、兵士達が次々と腐敗して肉汁と化している。
結界も融解して意味を為していなかった。
彼らのそばでは、雷撃を浴びて黒焦げになった死体が散乱していた。
そして、それらがアンデッドとして動き出す。
どうやら三人の王の異能が暴発したようだった。
傍観者だった兵士達に甚大な被害を受けている。
早く逃げればよかったのに、呑気に観戦などしているからそうなるのだ。
「はは、片付けが大変そうだな」
苦笑するオレは、アンデッドを始末するために歩み出すのであった。




