第72話 新米貴族は准伯爵を怪しむ
オレとラトエッダは洞窟を出発した。
奪った酒や宝を馬車に積んでオレが曳いて進む。
その中には賞金首ロブの死体も含まれている。
分断された上半身を載せていた。
賞金首の始末には証明が必要だった。
死体があればとりあえず問題あるまい。
唯一の懸念は、傭兵ギルドが営業しているかという点だろうか。
あの建物は、フレッドとの戦いでかなり荒らしてしまった。
最悪、金は貰えなくても構わない。
賞金首は自己満足で殺しているだけだ。
ついでに金が支払われるなら儲けものといった具合だった。
別に報酬が無くとも困らなかった。
もし金欠に陥ったとしても、国王に頼めば支給されるのではないかと思う。
あの爺は、オレを暗殺部隊に加入させたがっている。
ルード・ダガンの力と評判を利用したいのだから、多少のわがままなら受け入れるはずだった。
そんなことを考えつつ、オレ達は王都を目指して街道を進む。
既に辺りは夕闇に包まれていた。
視界は悪く、どこから盗賊や魔物が現れても不思議ではない。
無論、それくらいでオレが怯えるはずもなかった。
常人なら危機感を覚える状況であるも、この世界にオレ以上の脅威など存在しない。
暴力という面においては、誰にも負けない自信があった。
その自信は、数々の死闘で確固たるものへと昇華されている。
(……死を意識するような戦いをしてみたいがね)
直近ではランクレイとの決闘が待っているが、本音を言うなら、あまり期待はしていなかった。
確かにあの女も相当な実力者だ。
フレッドの弟子で、そこから独自に鍛練したらしい。
それによってラトエッダと比肩するだけの実力者となっている。
しかし、逆に言えばその程度であった。
オレと拮抗する領域は高望みにしろ、せめてあと一枚ほど限界を超えてもらわねば退屈な結果になる。
「ため息を吐いてどうしたのだね」
「決闘のことを考えていた」
「ランクレイか。君なら楽勝……と言いたいところだが、彼女も粘ると思うよ」
ラトエッダが涼しい顔で述べるので、オレは顰め面で返す。
「冗談はよせ。どうせ一瞬で終わる」
「ふむ。彼女を舐めない方がいいと思うがね。まあ、楽しみにしておこうじゃないか」
数歩先を進むラトエッダは、軽やかな足取りで歩いていく。
馬車を曳くオレは、その背中を注視した。
(何か掴んだのか? どうせ喋る気は無いんだろうが……)
実を言うと、オレもラトエッダと同意見だった。
決闘までの間に、ランクレイは何らかの策略を張っているはずだ。
正攻法では絶対に敵わないと分かっているはずだった。
師であるフレッドが惨敗した以上、さすがに無謀な戦いは挑まないだろう。
きっと絶望的な実力差を埋める何かを図るに違いない。
それがオレを喜ばせるだけの価値であることを望んでいた。




