第7話 新米貴族は失策を悔やむ
僕という存在は、ルード・ダガンの中にあった良心や倫理観を軸に人格を形成されている。
さらに念入りに全身を整形していた。
おかげで以前とは似ても似つかない風貌となっている。
声帯にも細工し、何から何まで変わり果てていた。
僕とルードを同一人物だと結び付けるのは、ほとんど不可能に近い。
封じ込めたルード・ダガンは、精神の裏側に秘めてあった。
禁術で縛り付けている。
消滅させることが不可能だったため、このような措置に留めている。
方法が見つかり次第、完全に抹消したい。
当初はそのように考えていた。
しかし、実際はあまり悠長に構えていられない状態である。
ルード・ダガンの精神は想像以上に強靭だった。
禁術による封じ込めを破ろうとしているのだ。
それは日に日に悪化している。
精神を分離した結果、凶暴な性質が顕著になってしまったらしい。
僕は貴族として新たな人生を歩み直したい。
ところがルードがそれを許さない。
常に平穏な日常を脅かしてくる。
たまに発露した際は、子爵に抑え込んでもらっていた。
就寝時は何重にも拘束を施し、暴走しないように努めてきた。
しかし昨夜、ついに爆発した。
あれだけ大々的に殺戮を起こしたのは、分離後では初めてである。
様々な方法で抑制してきたが、それが却って人格の反転を促したようだった。
簡単に言えば、我慢のし過ぎが誘発したのだ。
(本当に、なんてことだ。どうすればよかったんだ?)
僕は深い後悔の念に襲われる。
あらゆる対策を講じてきた。
それらがいずれも逆効果だった可能性があるのだ。
それによって昨夜の殺戮が起きたのなら、完全に僕の失策のせいだ。
方法が悪かったというより、根本的な方針が良くなかったのではないか。
無理やり封じ込めるばかりではなく、息抜きになる瞬間を作るのだ。
ただ、ルードが表層に出てくると、大勢の人が死んでしまう。
それに元に戻れなくなる恐れもあった。
今回は一晩だけで済んだが、次にルードが登場した時、僕が身体を取り戻せる保証はない。
最悪、立場が逆転して、精神の裏側に封じ込められる可能性も考えられた。
(絶望しかないな……)
まるで被害者のような考え方だが、僕は紛れもなく加害者だ。
ルード・ダガンから生まれた人格である。
過去に積み重ねてきた罪は消えない。
記憶として根付いていた。
終わらない自己嫌悪に陥っていると、頬を挟むように掴まれる。
我に返って視線を上げると、そこには子爵がいた。
彼女は呆れたように息を吐く。
「悲観しすぎた。君は私が見込んだ男だ。もう少し毅然としたまえ」
気遣いと優しさが言葉となって降ってくる。
彼女は僕の内心を察している。
その上で叱咤しているのだ。
「……はい。ありがとうございます」
僕はそれだけ答える。
後悔はここまでにしよう。
以降は反省を次に活かすしかない。
彼女の尽力によって、現在の身分を手に入れた。
それを台無しにしてはいけない。
僕は、立派な貴族になるのだ。