第69話 新米貴族は子爵の報告を受ける
軽口の応酬もそこそこにオレ達は通りを進む。
こちらを目にした人々は、ぎょっとした顔で道を譲りだした。
主にズタボロのオレを見て恐れているようだった。
しかし、実際は見た目ほど重傷ではない。
現在進行形で再生していた。
千切れかけの腕も繋がりつつあるし、顔の爛れや腹の腐蝕も音を立てて治癒している。
通りを抜ける頃には全快しているのではないか。
ただ、全身は未だ血みどろなので、どこかで身体を洗いたい。
予備の服も何着か買っておきたいところだった。
その一方、ラトエッダはオレが小脇に抱える物に注目する。
「ところでその紙束は何だ」
「賞金首の依頼用紙だ。全部まとめて持ってきた」
オレは紙束を見せつけるようにして振る。
これは傭兵ギルドに貼り出されていた代物であった。
本来は持ち出し厳禁だが、職員も特に咎めようとはしてこなかった。
全員まとめて始末するので、別に借りたところで誰も困りはしないだろう。
「君が社会貢献とは驚きだな。感動で涙が出そうだよ」
「言ってろよ狐女。ただの暇潰しだ。調子に乗った悪党共を殺すのは最高だろうが」
オレは鼻を鳴らして嘲ってみせる。
殺人行為そのものが大好物で、特に思い上がった連中をぶち殺すのは何とも言えない快感がある。
そこには悪党だけでなく傲慢な貴族共も含まれているが、ラトエッダは察しているに違いない。
「私も手伝ったほうがいいかね」
「勝手にしろよ。邪魔だけはするな」
「分かっているとも」
ラトエッダは涼しげに微笑する。
あまり自慢しないが、こいつも英雄に匹敵する強者だ。
そこらの賞金首に負けるほど柔じゃないだろう。
少なくとも足を引っ張られる心配はなかった。
「そういえば、件の決闘は盛大に宣伝されるらしい。国王は国民向けの催しとして進めるつもりのようだね」
「民衆共の娯楽になるからな。賭けで儲けることだってできる」
オレが吐き捨てるように言うと、ラトエッダは探るような目で問いかけてきた。
「見世物になるのは不満かね」
「どうでもいい。ランクレイのクソ女が殺せれば満足だ。目障りな観客がいれば、そいつもついでに殺す」
「乱暴な答えだな。もう少し貴族の優雅さを学んだ方がいい」
「ははっ、言ってろよ」
ラトエッダは気高い大貴族を気取っているが、その本性は生粋の反貴族派である。
懐古主義者を排除し、新たな枠組みを国内の基盤に組み込もうとしている。
ほとんど革命家に近い素質と思想を有していた。
一般的には善良な貴族として知られているラトエッダだが、実際は印象操作が上手いだけである。
狡猾な部分も多く、本質的にはオレより悪辣なのではないか。




