第65話 新米貴族は城下街を散策する
翌日、昼過ぎからオレは城下街を散策する。
決闘までの時間潰しを探すためだ。
城は退屈すぎるので困る。
おまけに貴族共の顔を見ると殺したくなってしまう。
別に我慢する義理もないのだが、それが原因で決闘が中止になるのは避けたい。
エリスとラトエッダが訪れた当初は無人だった通りも、現在は人々の活気でにぎわっていた。
しかし、オレを目にした途端に緊張感が走る。
人々は慌てて道を開けて、オレと目が合わないように意識している。
今にも泣き出しそうだったり、気絶する者も少なくなかった。
(まったく、まるで魔王のような扱いだな)
あまりの惨状にオレは苦笑する。
ルード・ダガンの到来は大きな噂となっているようだ。
きっと誰かが吹聴したのだろう。
住民の避難ができたくらいなので、相当前から綿密な計画が練られていたに違いない。
おそらくは騎士団長か大臣辺りが主導となっているのだと思う。
あいつらは確か頭の回る連中だったはずだ。
国王も狡猾な一面を持っている。
狂戦士の被害を抑えるため、いくつもの作戦を用意しているのだろう。
まあ、別にどうでもいい。
恐れられるのはいつものことだ。
ここで暴れ出したところで何も面白くない。
顔に巻いた上着を締め直しつつ、オレは静寂に変わる大通りを進んでいく。
途中で見かけた骨董店に入って仮面を探す。
上着を巻き付けたままでも構わないのだが、さすがに恰好が付かない。
本来の鉄仮面は決闘で勝って奪い返すつもりなので、それまでの代用品が欲しかった。
少し悩んだ末、オレは木製の仮面を購入した。
樹木型の魔物から作ったもので、軽さの割に頑丈なのだ。
余計な装飾もなく、全体的な造形もオレ好みである。
店主に金貨数枚を投げ渡して店を出た。
オレはその足で傭兵ギルドへと向かった。
ここは無所属のならず者ばかりを集めた組織である。
ギルドなんて体を取っているが、実態は無秩序にも等しい場所だ。
規則に従えない野郎共を組織の枠組みに無理やり押し込み、報酬をちらつかせて治安を辛うじて維持している。
それでも兵士や騎士では足りない部分を補う役割を担っているため、各都市では一定の需要があった。
「よう、相変わらず騒がしい場所だな」
オレは片手を上げて気楽に踏み込む。
先ほどの大通りと同様、どいつも怯えて避け始めた。
(屈強な男共が情けねぇな)
まあ、客観的に見れば当然のことだろう。
室内の人間が一気に襲いかかってきたとしても、オレは皆殺しにできる。
オレの機嫌一つで生死が左右されるのだから、彼らの動揺も分からなくはなかった。
空いたテーブルを占領したオレは、酒を注文して待つ。
その間に室内の傭兵共はそそくさと外へ出て行った。
やがて競うようにして脱出し始める。
酒が届く頃には誰もいなくなっていた。
顔面蒼白の職員だけが残っているだけである。
オレは小さく嘆息すると、酒を一気に飲み干した。




