第64話 新米貴族は子爵の指摘を拒む
応接間を後にしたオレは、寝泊まりに使えそうな部屋を物色しながら廊下を進む。
隣を歩くラトエッダがため息を洩らした。
「相変わらず豪胆だな。交渉が上手く運べたからいいものの」
「それが取り柄なんだ」
国王は妥協してオレの案を呑むしかなかった。
要求を跳ね除けた場合、自らの命が危うくなる。
この城にオレを止められる存在はいない。
いや、そんな強者はどこにもいないだろう。
昔から交渉事は大の得意なのだ。
それは国王にも問題なく通用する。
悪くない気分だった。
「なぜ出てきた。そんなにランクレイが殺したかったのか?」
「まあ、そんなところさ。始末するにしても、ある程度の口実が必要だろう。オレだって学んでいるんだぜ」
「結局は殺戮しているのだがね……」
ラトエッダはどこか疲れた様子で嘆息する。
どうせエリスを補助するために様々な策を考えていたに違いない。
それをオレにぶち壊された形になったのだ。
文句の一つも言いたくはなる。
ただ、オレだって同じ心境であった。
国王はエリスを利用しようとしていた。
それがなんとなく癪だった。
だからランクレイの命を交換条件に挙げたのである。
総合的に見ると、此度の交渉は悪くない結果に落ち着いた気がする。
国王と直接手を結ぶことになったので、今後もとことん利用してやるつもりだ。
「それにしても決闘か。ランクレイも不憫だな。さすがの私でも同情してしまう」
「よくも言えたもんだ。あんたが他人を心配する性質とは思えないがね」
「心外だな。私だって気遣いの心は持ち合わせている。君だってそうだろう」
ラトエッダが足を止めて指摘する。
オレも立ち止まり、彼女の生意気な眼差しに舌打りした。
「狂戦士が気遣いだって? 今度こそ笑えない冗談だ」
「そうやって誤魔化すのだね」
ラトエッダが詰め寄ってくる。
その顔が間近に迫ってきた。
背中に何かがぶつかる。
位置的に壁際にいたのだった。
「何が言いたい」
「エリスと君は一心同体。禁術で精神を分離しようが限度がある。本質的には同一人物だろう? ルード・ダガンは自らの考えで精神を二分した。つまり、あの時点で決断したのはエリスではなく――」
「黙れ。それ以上喋んな」
オレはラトエッダの考察を遮ると、彼女を押し退けて歩き出した。
それからは振り返らずに廊下を進んでいく。
「ロードレスに連絡をやって、他の王を呼び出しておけ。決闘までの暇潰しに暴れまくる」
「無用な殺戮はするなと国王が言っていたが」
「従う義理はねぇよ」
オレは悪態を吐きながら応じる。
近くの扉を蹴破って、室内の人間を放り出して睡眠の準備を始めた。
良い気分になったのが台無しであった。




