第63話 新米貴族は交渉を進める
オレの発言に国王が微かに眉を寄せる。
「なぜ准伯爵の命を狙うのだ」
「あのクソ女が仮面を奪いやがったからさ。それにオレを殺したがっていた。利害は一致している」
オレが気楽な調子で語る。
正直、そこまで怒っているわけではないが、不快なことに変わりはなかった。
准伯爵らしいあの女は、明らかに調子に乗っていた。
傲慢な言動で、許可もなしにオレの仮面を盗んでいったのである。
臆病者のエリスが逆らえなかったことに関しては予想通りなので、取り返すのがオレの役目だろう。
「どうするんだ。オレの条件を呑むか。それとも諦めるか?」
「准伯爵の殺害を容認すれば、本当に組織に加入するのだな」
「約束は守る。オレほど誠実な人間なんて存在しないだろうさ」
国王の念押しに頷くと、横でラトエッダが笑い声を洩らした。
オレは冷めた気分で睨み付ける。
「何か文句でもあるのか?」
「失礼。君の冗談が面白かっただけだよ。苛立たせるつもりはなかった」
「……チッ」
オレは忌々しげに舌打ちする。
こういったやり取りは無駄だから嫌いだ。
ラトエッダは舌がよく回る。
いくら文句を言ったところで受け流されるだけだろう。
言い合いを断念したオレは、手を打って国王に答えを迫る。
「早く決断してくれ。あれだけこっちを急かしてきたんだ。結論の先送りは許さねぇからな」
「…………」
国王は沈黙する。
表情から感情は読めない。
少なくとも恐怖は感じていないようだった。
さすがは一国の王といったところか。
狂戦士が相手でも取り乱すような真似はしない。
やがて国王は、オレの提案に対する答えを述べた。
「――決闘だ。数日後、正式に場所を設けて実施する。それならば許可できる」
「へぇ、悪くないな」
微笑するオレは、脚を組み直しながら鼻を鳴らした。
「しかし薄情だな。大切な配下が死んでもいいのか。それなりの爵位なんだろう?」
「前々より准伯爵の横暴には手を焼いていた。これを機に彼女の弟に領地を継がせるべきだと考えている」
「ちょうどよかったわけかい」
まんまと利用される形になってしまった。
厄介者の排除にオレを選んできたのだ。
どうやら武闘派の大貴族を大々的に殺せる相手として選定されたらしい。
利用されることには腹が立つものの、オレに不利益もない。
特に反論するつもりはなかった。
「その取り決めで問題ないか」
「ああ、満足さ。思ったより楽しくなそうだ」
話がまとまったところで、俺はソファを立ち上がった。
すっかり冷めた紅茶を一気飲みすると、部屋の出入り口へと歩いていく。
「どこか適当な部屋を借りるぜ。決闘の続報を待っている。ほら、行くぞ」
オレはラトエッダを促す。
小さく笑った彼女は黙ってついてきた。
扉を開けて退室する際、国王が忠告を投げてくる。
「滞在する分には構わないが、くれぐれも無用な殺戮は控えほしい」
「考えておくよ」
オレは軽く流して部屋を出た。




