第61話 新米貴族は思い悩む
「暗殺組織とは、どういうことでしょうか……」
「そのままの意味である。王国にとって不利益となる個人・勢力・国を排除する機関だ」
国王が粛々と説明をしてくれる。
そういった組織があるのは噂で知っていたが、まさか直接的に勧誘されるとは予想外であった。
まったく無縁だと思っていたのだ。
確かにこれは密談でないといけない。
公にはできない内容だった。
ルードの参入を拒む貴族は絶対に多いだろう。
そういった反発の声を無視するため、国王は裏で根回しをしに来たのである。
よほど必要とされているらしかった。
僕が反応に困っていると、子爵が会話の引き継ぎを述べる。
「ルイスというより、ルード・ダガンの力を求めておられるのですね」
「うむ。信頼に足る手駒が不足しているのでな」
「失礼ですが、彼は信頼できる人材ではないかと」
子爵は冷ややかに指摘を挟む。
遠慮のない意見だが、それがルードに対する子爵の印象なのだろう。
(自分のことではないのに傷付いてしまうな)
やはり元は一人だったのが要因か。
どれだけ嫌悪したところで、僕はルード・ダガンから生まれた人格である。
完全な別人と認識できるほど離れてはいないのだ。
国王はじっと僕の顔を見ながら語る。
「戦力的な意味での信頼だ。狂戦士ルード・ダガンほどの強者は存在しない。本音を言うならば、そなたが打ち負かせたことに驚いている」
「勝敗は力の強さだけで決まるものでもありませんので」
「さすが子爵だな。だからこそ面白い」
国王が薄く笑い、巻き煙草を手に取った。
指を鳴らして着火すると、それをゆっくりと吸い始める。
何らかの道具を使った様子でもない。
おそらく魔術だろう。
「暗殺組織への加入だが、別に名ばかりでも良い。ルード・ダガンが傘下に入ったという事実が重要なのだ。他国への牽制になる」
「積極的に活動しなくてもいいのですか?」
「そなたが希望しないのならばな。無論、率先して動いてくれるのが一番だが」
国王の考えは理解できる。
ルード・ダガンの名には、それだけ影響力があるのだ。
他国でも十分に通用するほどであった。
恨みも散々に買っているし、同時に恐れられている。
ひとたび目を付けられれば、甚大な被害は必至なのだから当然である。
竜に襲われる方がまだ安全といった具合だった。
僕は国王の視線を受けながら長考する。
垂れ落ちる汗を感じながら、辛うじて言葉を発した。
「少しだけ、考えてもいいですか?」
「好きなだけ考えると良い。そなたの今後に関わることだ」
国王は鷹揚に頷く。
真剣な双眸は、下手な誤魔化しなど許されないことを示していた。