第6話 新米貴族は過去を振り返る
ルードは幼い頃から戦場に身を置いていた。
孤児で貧しい暮らしの彼には、それしか道がなかったのだ。
当時、各国の情勢は今よりも不安定であった。
どこでも争いが絶えず、ルードは戦場の死体を漁るのが日課だった。
手に入れた遺品を売って食糧を得ていたのだ。
ルードが傭兵として戦うようになったのは十五の時である。
死体かと思った敗残兵が襲いかかってきて、錆びた剣で滅多打ちにしてきたのだ。
全身が傷だらけになったルードは、骨が折れて指も何本か切断された。
このまま殺される。
そう思った時、気が付くと身体が動いた。
具体的には死体から斧を奪って、敗残兵の額に叩き込んだ。
倒れたところに斧を振り下ろした。
何十回も斬り付けて、解体された死体を前に安堵したものである。
同時にルードは歓喜した。
命を懸けたやり取りの楽しさを知ってしまったのだ。
早い話、戦場に魅入られたのであった。
それからルードは、傭兵として戦場に現れるようになった。
死体から奪った武器で敵を殺し続けては戦果を挙げた。
稼いだ金はすべて自分の治療費に使った。
満身創痍となった半日後には別の戦場で暴れ回る始末で、持ち前の回復力も活かして、ひたすら戦いに明け暮れた。
ルードには主義も使命もない。
善悪にすら興味がなく、命を削り合う戦いさえできれば満足だった。
敵味方を問わず殺し合いを強要し、強大な力を持つ魔族や竜をも殺戮した。
常勝無敗の反英雄。
それがルード・ダガンであった。
(だけど、もう死んだんだ……)
僕は唇を噛み締める。
手が小刻みに震えていた。
鮮血を幻視するも、瞬きをするとそれは治まった。
ぬめるような感触も気のせいだ。
鼻腔を撫でる血の臭いも紛い物だろう。
過去の記憶は、痛みとなって訴えかけてくる。
罪の意識だ。
昔は感じることがなかったものである。
僕は確かに成長した。
それらを戒めとして内に刻み込んでいる。
半年前、ルードは子爵と出会った。
それが人生における第二の転機だった。
まさしく運命と言えよう。
紆余曲折を経て、ルードは己の行動を改めることに決めた。
子爵に相談した彼は、彼女の提案で凶暴な性質を封じ込めることになった。
禁術を以て人格を分離し、善良な人格を生み出した。
それが僕――名誉男爵のエリスである。