第54話 新米貴族は王都に足を踏み入れる
子爵が話をつけている間、僕は固唾を呑んで見守る。
いつ攻撃されるか分からない状況だが、その背中から焦りや恐怖は感じられなかった。
余裕の風格を彼女は帯びている。
「心配しなくても大丈夫よ」
「そう、ですよね」
「彼女ならやり遂げるわ。そこはエリス君が信頼してあげないと」
屍王は気楽な調子で述べる。
彼女は特に心配していないようだった。
それだけ子爵のことを信じているのだろう。
ほどなくして子爵が手を振ってきた。
話がまとまったらしい。
さすがは子爵である。
この一触即発の空気の中でやり切ったのだ。
おかげでひとまず戦いは避けられそうであった。
「では、行ってきます」
「頑張ってね。いつでもあたしが駆け付けてあげるから!」
屍王が嬉々として声援を送ってくれる。
ただ、その内容は少し物騒だった。
(そうならないのが一番だけど……)
僕は意を決して進んでいく。
左右に別れた王国軍の間を歩いて進む。
緊張の瞬間だが、何事もなく通過できた。
僕達が通り抜けた後も、王国軍はその場に待機している。
彼らは、屍王の率いるアンデッドの群れを注視していた。
「彼らは引き続き警戒態勢を敷くそうだ。あれが攻め込むことを恐れているらしい」
「立ち向かったとしても、敵わないと思いますが……」
「それでも逃げることは許されない。兵士の忠誠と矜持は固いものだよ」
子爵の説明を聞きつつ、僕達は王都に近付いていく。
やがて門が開かれて閑散とした街並みが見えた。
アンデッドの襲来を前に、誰もが避難しているらしい。
僕と子爵は、寂しげな通りを歩いていく。
「王都に来るのは久々だな。君はどうだね」
「僕は、初めてですね……彼は何度か訪れていますが」
僕の爵位は略式で授けられたものだ。
式も王都では行われていない。
名誉貴族とはそういう扱いなのである。
ちなみにルードは王都にて戦争を起こしたことがあった。
彼を虐殺者として排斥する動きに怒り狂ったのだ。
当時はかなりの被害が出ており、国王が生き残ったのはただの幸運だろう。
通りをしばらく直進していくと、前方に一人の男が待っていた。
まばらに白くなった黒髪と肌の皺で、男の年齢が初老に差し掛かっていることを窺える。
執事服で糸目の男は、柔和な笑みを浮かべていた。
「ほう、迎えがいるようだ」
「あの人がそうですか」
僕は執事服の男に注目し、その佇まいに眉を寄せる。
(……相当な強さだな)
僕でも漠然と分かるほどだ。
何の武器も持っていないようだが、達人たる気配を纏っていた。
執事服の男は優雅に一礼すると、僕達を招く。
「お待ちしておりました。こちらへお越しください」




