第53話 新米貴族は王都に着く
それから僕達は十数日ほど移動を続けた。
王都に近付くほどに襲撃の頻度は減少していった。
甚大な被害を受けて、貴族達が委縮したのだろう。
或いは無駄な行為だと悟ったのかもしれない。
僕としては余計な死人を出したくないのでありがたかった。
ただし、屍王は不満そうだった。
無数のアンデッドを率いる彼女、もっと数を増やしたかったようだ。
正直、これ以上の戦力増大はあまりすべきではないと思う。
既にかなりの大所帯なのだ。
おかげで街や村に寄れず、野宿を余儀なくされている。
この軍団で押しかければ間違いなく騒ぎになるだろうから、これは仕方のない対応だった。
そうした不便なことはありつつも、僕達は無事に王都近郊に到着した。
街道に沿った遥か先には、高い外壁に囲われた都市が望める。
あれが王都――王国の中心地だ。
ところが、距離が縮まるごとに異常な点が見つかった。
王都の前に軍隊が整列している。
ちょうど僕達の進路を阻む位置であった。
ただの訓練などではない。
考えるまでもなく、こちらの接近に対する反応だ。
僕達は矢も届かない距離で一旦止まると、王国軍を遠目に観察する。
「明らかに警戒されていますね……」
「侵略行為と何ら変わらないからな。向こうの反応も当然だろう。むしろ、ここまで素通りできたことが奇跡に近い」
子爵は落ち着いた様子で述べる。
屍王のアンデッドは、十数日の時を経て強化されていた。
増えすぎた数を圧縮するため、一部の個体を合成したのである。
そうして、複数の巨大なアンデッドを生み出していた。
戦力的には、通常個体とは比べ物にならない強さらしい。
それだけのアンデッドを大量に揃えているのだから、その気になればあの王国軍だろうと簡単に蹴散らせる。
アンデッドにとって致命的な弱点である聖魔術も、屍王の異能の特性で無効化されていた。
これほど悪辣なことはないだろう。
「道中の貴族たちが手出ししてこなかったのは、現状は黙認した方が良いと判断したのだろうね。彼らにとって、利益と保身が最優先事項だ。既に君や私と仲良くすべきだと考える輩も多いだろう」
「そうなんですか?」
「配下に優秀な死霊術師がいるのだ。純粋な軍事力で言えば、国内最強に等しい。さらに言うと、そこに並ぶ王があと四人もいるのだよ。私が第三者なら、まず戦いたくないと思うがね」
屍王は凄まじい能力を保有している上、ロードレス領には他の王も待ち構えている。
いずれも拮抗するだけの強さを誇る超人ばかりだ。
一国を陥落させ得る強者が五人も所属しており、此度の遠征でその力を存分に思い知った。
貴族達がロードレス領との関係性を再考するのも納得できる話であった。
(ルードはこの状況を狙っていたのか?)
彼は五人の王をわざと殺さなかった。
ロードレス領における僕の立ち位置を確固たるものとするためとのことだが、まさか王国からの干渉も予測していたのか。
戦いに関する嗅覚は異様に鋭いので、十分にありえることである。
僕は王都前に集結する王国軍に視線を戻した。
「争う構えに見えますが、どうしますか?」
「まずは私が話を通してこよう。合図を出したらエリスだけが来てくれ。屍王は待機だ」
「どうして? あたしだってエリス君についていきたいわ」
屍王が不満そうに言うと、子爵は冷静に反論する。
「この軍勢を連れて行くのかね。君にはここで牽制してもらった方が助かる。王国軍も余計な真似はできないだろう」
「それなら仕方ないわねぇ……エリス君を守ってあげてね?」
「もちろんそのつもりだ。私が責任を持って護衛する」
話をまとめた子爵は、王都方面に向けて歩き出した。
「先に話を付けてくる。何もせずに待っていたまえ」
僕達にそう告げると、以降は振り返らずに王国軍に歩み寄っていく。




