第51話 新米貴族は屍王と協力する
屍王が近くから椅子を引っ張ってきて、僕達と同席した。
料理と酒を頼んだ彼女はフードを脱いで、藍色の髪を露わにする。
不思議な輝きで、見惚れるほどの美しさだ。
しかし、それに呑まれるのは危険だと本能的に理解している。
僕は目の前の水を飲んで意識を逸らした。
一方、子爵は脚を組み直しながら尋ねる。
「ところで追っ手は来なかったのかね。君ほどの存在だと、領外に出れば即座に警戒されそうなものだが」
「ええ、まったく問題なかったわ。全部片付けたもの」
屍王はあっさりと述べて、ひらひらと手を振ってみせる。
対する僕は困惑した。
「全部……?」
「そうよ。エリス君が安全に旅できるように、先にお掃除しておいたの。ほら、こっちにいらっしゃい」
屍王は手を叩いて鳴らす。
途端に食堂の外が騒動しくなってきた。
悲鳴や怒声が響いて、すぐに掻き消える。
食堂内の客は不安そうな顔になっていた。
ほどなくして静寂が戻ってくる。
入口から現れたのは、血みどろの人間だった。
濁った双眸で呻き声を洩らしている。
そのような人間が続々と室内に侵入してきた。
(アンデッド!?)
僕は椅子を倒しながら立ち上がる。
他の客は別の扉から逃げ出していく。
攻撃を試みようとする者もいたが、際限なく侵入してくるアンデッドを前に、断念を余儀なくされている。
慌てる僕とは対照的に、子爵と屍王は冷静だった。
室内を歩き回る屍王は、放置された料理と酒を運んできて、元の席で美味しそうに食べ始める。
室内に溢れ返ったアンデッド、一定の距離を保って僕達を包囲した。
その状態で彫像のように動かなくなる。
不気味な光景の中、子爵は呆れたように言う。
「我々を狙う暗殺者をアンデッド化させたのか」
「無関係な人も混ざってるでしょうけどね。いちいち区別するのも面倒だから、怪しい人は片っ端から転化させたの。あたしのおかげで安全な道のりになってたでしょ?」
「そうでしたね……ありがとう、ございます」
「どういたしまして。エリス君のためなら、たくさん働けちゃうんだから……あの最低な狂戦士に変身されると悲しいし」
屍王は口を尖らせてぼやく。
冗談を言っている雰囲気ではなかった。
(ルードは何をして嫌われたのだろう)
戦って負かしたのは知っている。
おそらくその時に、よほど傷付けたのではないか。
何があったのか想像していると、子爵が耳打ちをしてくる。
「屍王の実力は本物だ。死者の軍勢を操ることができる。君の命を守ってくれるだろう」
「……頼りになりますね」
これだけのアンデッドを操れるとは、相当な能力であった。
軍隊が相手だろうと容易に対抗できるはずだ。
倒した敵を味方に引き込めるという特性もかなり反則的である。
それこそルードでなければとても勝てないと思う。
いつの間にか料理を完食した屍王は、僕に手を差し出してくる。
「これからよろしくね、エリス君」
「こちらこそ、よろしくお願いします」
僕は躊躇いがちにその手を握った。




