第48話 新米貴族は領外を進む
僕と子爵は移動を続ける。
その日のうちにロードレス領の外へと至った。
草原を貫く街道を進み、夜は焚火を作って交互に眠る。
日が昇れば移動を再開する。
そのような日々を繰り返していた。
(のどかな光景だ)
僕は少し拍子抜けしていた。
驚くほどに何も起こらない実に平和な旅路だ。
ロードレス領とは緊張感がまるで違う。
どこか弛緩しており、まるで別の国のようだった。
慣れかけていたが、やはりあの土地が異常なのだ。
数十年以上に渡って戦乱で歴史を紡ぐ場所である。
比較対象にはしない方がいい。
改めて自らの領地について考えていると、隣を進む子爵が呟く。
「不思議だな。そろそろ襲撃があるかと思ったのだが」
「ど、どうしてですか?」
「君と私を暗殺すれば、ロードレス領主の座が空く。それでなくとも、ルード・ダガンに恨みを者は多い。どちらの動機にしろ、狙う輩は多いと思うよ」
「なるほど……」
僕が漠然と抱いていた違和感は、おそらくそれだろう。
今の状況は、他の貴族から攻撃を仕掛けられても不思議ではなかった。
ここまで何事もなかったのが幸運なのだ。
しかし、子爵はそれを不審がっている。
何らかの襲撃を予測していたらしい。
(子爵の考えが外れるなんて珍しいな)
彼女は常に先の展開を俯瞰している。
予想や推測が的中することは頻繁にあった。
それだけの観察眼と頭脳があるからこそ、国内有数の貴族なのだ。
だから此度の移動の静けさが気になるらしい。
(何事もないのが一番だけど、確かに不気味に感じる)
僕はふと周囲を警戒する。
何か分かるということもない。
ただ平凡な草原が広がっているだけであった。
もし暗殺者が隠れていたとしても、僕には察知できない。
最悪、気付かない間に殺されてしまうのではないか。
「今更だが、仮面は常に取り出せるようにしておきたまえ。どこで誰が襲ってくるか分かったものではない」
「分かりました。気を付けます」
僕は懐に触れながら頷く。
この仮面が僕の生命線だった。
いつでも装着できるようにしておかなければならない。
ルード・ダガンならば、何が相手でも対処できるのだ。
たとえ魔族の軍勢だろうと、古の竜だろうと無差別に屠ることができる。
国王との召集は僕が任されたが、道中の戦いについては頼ってもいいのではないか。
彼もそれくらいは想定しているはずだ。
ここまで何も起こらなかったが、王都まで平和とは限らない。
むしろロードレス領から離れていくほどに注意すべきだろう。




