第44話 新米貴族は新たな王と邂逅する
(他の王だって?)
僕はすぐさま疑問に思う。
それは当然のことだろう。
なぜここで"他の王"という言葉が出てくるのか理解できなかったのだ。
しかし、僕は直感的に事態の真相を悟っていたのだろう。
なんとなく嫌な予感を覚えると同時に、子爵に疑問を投げかけようとしていた。
「それは一体どういう――」
「やあやあ、ようやくお目覚めになられましたか。気分はいかがでしょう?」
質問を遮るようにして、芝居がかった声が聞こえてきた。
炎王が去った方角とは反対側の廊下からだ。
優雅な足取りで近付いてくるのは、眼鏡をかけた青髪の男だった。
年齢は三十代前後で、やや細身の体躯を洒落た衣服で包んでいる。
全体の雰囲気は学者然としているが、顔に張り付けた笑みはどことなく胡散臭い。
それが端麗な容姿を台無しにしていた。
どことなく信頼できない気配を漂わせている。
眼鏡の男は僕の前まで来ると、顎を撫でながら観察を始める。
相手を凍らせんばかりの冷たい視線だった。
「ふうむ。思ったより軟弱な身体ですねぇ。ちゃんと鍛えてます?」
「あ、いや……えっと」
「おっと。そろそろ茶会の時間ですので失礼しますよ。また暇な時にでもお話しましょう」
眼鏡の男は思い出したように言うと、踵を返して歩き去ってしまった。
以降、一度も振り返らずに消えてしまう。
まるで幻だったのかと疑うほどに、あっさりといなくなった。
僅かなやり取りだが、僕の鼓動は動揺で速まっていた。
具体的な理由は自分でも分からないが、男の視線に恐怖したのは確かである。
胸に手を当てて心を落ち着かせていると、子爵が解説をする。
「ロードレス領の支配者の一人、氷王だ」
「氷王、ですか」
息を吐いた僕が復唱するのを見て、子爵は廊下の先を見ながら頷いた。
「自らに敗北を刻み込んだルードを忌み嫌っており、いつか殺したいと明言している。あの様子を見る限り、君に対してはあまり興味がないようだ」
「それは喜んだ方がいいのですかね……?」
「もちろんだとも。あの男の逆鱗に触れると、たちまち氷像にされてしまうからね。興味を持たれないのは、間違いなく幸運だろう」
子爵の言葉が本当なら、僕は確かに幸運に違いない。
何しろ対抗の術が無いに等しいのだから。
氷王の機嫌次第では殺されていただろう。
仮面を装着する暇さえ無かったに違いない。
「現在、この村にいるのは炎王と氷王だけだ。他の王ともいずれ会うことになるはずだ」
「そうですか」
僕は胃の痛みを知覚する。
詳細を聞かずとも、凄まじいことが起きているのは分かった。
それも無視できないような問題である。
現実から目を背けたいが、そろそろ認めねばなるまい。
「あの……」
「何だね」
「この半年間で、何が起きたのですか? ルード・ダガンは何をしたのですか?」
僕は最も気になっていたことを尋ねた。
すると子爵は、答えの代わりに僕の背中を押した。
彼女は楽しそうに笑みを深めながら歩き出す。
「歩きながら説明しよう……だいたい察知が付いているようだがね」




