第4話 新米貴族は子爵に諭される
散らかった荷物を整理し、仮面と指輪を洗う。
それらをまとめて鞄に詰め込んだ。
特に指輪は、僕がレイクを殺した動かぬ証拠である。
ここに置いていくのは不味い。
とりあえず持っていくしかないだろう。
どこか見つからない場所で破棄しようと思う。
暴走した僕は、衝動のままに殺し尽くした。
それは過去のことだ。
開き直れるほど図太い神経ではないものの、絶望して何も行動しないのは違う。
せっかく人生を一新したのだ。
子爵の計らいで貴族になれた。
それを台無しにするつもりはない。
何よりここで僕の犯行であると露呈した場合、子爵に迷惑がかかってしまう。
僕の人生が破滅するのは仕方ない。
しかし、彼女の足まで引っ張ってしまうのは絶対に駄目だ。
そのためにも昨夜の凶行は隠し切らねばならなかった。
幸いにも顔は仮面で隠していた。
誰も僕の仕業であると知らない。
昨晩は社交界の直後で、たくさんの貴族がこの街にいた。
レイクは普段の素行から各所で恨みを買っている。
どこから暗殺者を送り込まれてもおかしくない人物だった。
彼を殺害した候補はいくらでも挙がる。
僕に繋がることはないと思う。
とにかく平然と行動すればいい。
それだけで容疑の目は向けられないはずだ。
我ながらすっかり弱気な気質になってしまった。
少し前までは、もっと堂々としていた。
昨晩の社交界にいた貴族は、誰もが自信を持っていた。
彼らを真似ていきたいものである。
出発の準備を終えた僕は、部屋を出ようとした。
その時、扉が外からノックされた。
僕は動きを止めると、咄嗟に視線を巡らせる。
反射的に武器を探したことを自覚して、ため息を吐いた。
深呼吸で平常心を装っていると、扉の向こうから声がした。
「私だ。起きているか?」
子爵の声だった。
少し緊張を含んでいる。
その理由に察しが付いた。
胃の痛みを無視して、僕は扉を開く。
そこにいたのは子爵一人だった。
護衛は連れていないらしい。
僕は彼女を室内に招いた。
子爵は椅子に座ると、テーブルに箱型の魔道具を設置した。
そこから柔らかな光が投射される。
光は室内に漂い始めて消えた。
「結界を張った。これで盗み聞きされる恐れはない」
「…………」
僕は息を呑む。
子爵は盗聴対策をした。
つまり、今から聞かれてはいけない話題をするということだ。
やはりレイクの死について話すのだろう。
非難されるのは確実だ。
反省してどうにかなることではない。
しっかりと受け止めるべきだろう。
深い後悔に襲われつつも、僕は気を引き締めた。