第33話 新米貴族は失望される
遺跡に近付くにつれて、そこで待つ人影が見えてきた。
大柄な体躯で紅いマントを羽織っている。
背中に大剣を吊るした赤髪の男だ。
離れた場所からでも伝わる覇気がある。
間違いない。
あの大男が炎王だろう。
「向こうは一人か。大した自信だ」
「近くに部下が潜伏しているのではないでしょうか」
「いや、誰も隠れていない。奴は本当に一人だ」
子爵は首を振って述べる。
僕達を騙し討ちする可能性を考えたが、そういった性格ではないらしい。
或いは自分一人で事足りると考えているのか。
やがて互いの表情が分かる程度の距離になった。
炎王はじっと僕達を見ると、重々しく口を開く。
「お前が新しい領主か」
「はい、そうです」
「軟弱そうな男だな。見込み違いだったか?」
いきなり罵倒された。
それほど悪意は感じられないので、率直な感想なのだろう。
軟弱なのは事実である。
何も言い返せない僕の代わりに子爵が前に出た。
「その態度は領主に失礼だとは思わないかね」
「従者の癖に生意気だな。ここで消し炭にしてやってもいいんだぜ」
「やれるのものならやってみろ。その前に貴様の喉を貫く」
子爵が静かに挑発する。
炎王の殺気にも一切臆していない。
彼女が炎王に迫る実力者だということだ。
彼女なら互角以上に渡り合えるのではないか。
そう思わせるだけの気迫を備えていた。
一方で僕は総毛立って動けなかった。
まるで心臓を鷲掴みにされているような感覚に襲われている。
冷や汗が止まらず、視界が狭まっていくような錯覚に陥っていた。
自殺すれば楽になれるのではないか。
そんな考えが浮かぶほどには追い詰められていた。
子爵と炎王の睨み合いはしばらく続いた。
先に殺気を止めたのは炎王だ。
感心したように表情を変えた彼は、親しげな様子で子爵に提案する。
「――ふむ。殺すには惜しい女だ。俺様の愛人にならねぇか?」
「お断りだ。私はそこまで安くない」
子爵は即答した。
そのことに安堵した僕は、なけなしの勇気を振り絞り、炎王に向けて本題を切り出す。
「僕を呼んだ理由は何でしょうか」
「新しい領主がどんな野郎か確かめたくてな。想像以上に期待外れだが……そいつは演技かい?」
苛立つ炎王が僕を凝視する。
空間を軋ませそうな眼力だった。
その直撃を受けた僕は反射的に後ずさる。
腰が抜けそうになるも、精神力で耐えた。
しかし、それも長続きしそうにない。
僕の反応を眺めていた炎王は、深々とため息を洩らした。
そして背中の大剣をゆっくりと抜き放つ。
「本気の怯えが見えるぞ。つまり替え玉ってわけか。まったく、とんだ無駄足だったな。仮面を使う異能者と聞いていたが、つまらん策を打つようじゃ駄目だ」




