第28話 新米貴族は励まされる
「無論、エリス様にも期待しておる次第です。ルード様は言いました。あなたならロードレス領を支配できる、と」
「……それは本当ですか?」
「もちろんですとも。この耳でしかと聞きましたな」
村長が耳を軽く叩きながら頷く。
彼の言葉が本当なら、ルードは僕が領主になれると考えているらしい。
とても信じられないが、ここで村長が嘘をつく意味もなかった。
「それは私も初耳だな。なんとも彼らしくない言葉だが」
「戦場で呟いておりましたぞ。きっとエリス様のことを気遣っているのでしょう」
「馬鹿な……」
僕は思わず呟く。
ルード・ダガンに気遣うという感情はない。
あれは殺戮に魅入られた異常者だ。
戦場でしか生きられない鬼神である。
いくら同じ肉体を共有しているとは言え、僕に対して協力的になるとは思えなかった。
しかし、彼は僕の領主運営を補助し、こうして拠点を構築している。
他の村や都市も制圧したらしい。
僅か七日で早くもロードレス領における地位を確立していた。
(彼は何が目的なんだ?)
僕は立ち止まって考え込む。
何か裏があるような気がしてならない。
善意で動く男ではないことを知っている。
静かに悩んでいると、子爵が僕の肩に手を置いた。
「次にルードが現れた時、私から訊いておこう。個人的な興味もある」
「お願いします……」
僕は頭を下げる。
構造上、僕が話しかけるのは不可能だ。
子爵ならば安心だった。
彼女にルードの狙いを聞き出してもらうしかない。
僕は気を取り直して村長に質問する。
「今後の村の方針は決まっているのですか?」
「それもルード様より伝言を預かっておりますぞ」
村長は咳払いをした。
少々の間を置くと、鋭い眼差しで僕を注視する。
「――このまま中央部へ侵攻すること。敵対勢力は殲滅すべし。そう聞いております」
「彼らしい意見ですね」
「短期決戦で領主の座を確保したいのだろう。地場固めは重要だが、長い目で見ると破綻する恐れがある」
子爵は冷静に補足を挟む。
彼女の言う通りだ。
強引な襲撃と制圧は多大な軋轢を生み出す。
初期段階では逆らえないが、時間が経つごとに反感は膨らんでいく。
そうして始まるのは報復行為の連鎖だ。
泥沼の戦いに利益はなく、あとはただ潰し合うだけである。
ルードはそうなる前に領主の地位を掴むべきだと考えたのだろう。




