第24話 新米貴族は村を掌握する
その日の昼過ぎ。
オレは木製の椅子に腰かけていた。
体重をかけるたびに軋んで鬱陶しい。
手に持ったグラスには酒が入っていた。
薄い赤色で、鼻を寄せるときつい臭いが刺す。
一気に飲み干したその瞬間、オレはグラスを放って顔を顰めた。
「不味いな。腐ってんじゃねぇのか?」
「そうでもない。慣れれば悪くない味だよ」
隣に座るラトエッダはグラスを掲げて言う。
先ほどから普通に飲んでいる。
この酒はかなり偏屈な味だった。
初めて飲んだ系統だが酸味が強すぎる。
少なくともオレは受け付けないものの、ラトエッダは気に入っているらしい。
「味覚の好みすら合わねぇとはな」
「ははは、光栄だよ」
「……クソ女が」
ラトエッダは頻繁に腹の立つ皮肉をぶつけてくる。
オレの記憶ではこんな奴ではなかった。
半年前、初めて出会った時はもっと高潔で、聖人のような振る舞いだったと思う。
ただの敵から関係が変化した際も、もっとマシだったろう。
気の利く友人といった具合で、皮肉ばかりを吐くようになったのは最近である。
(エリスとの出会いで心境の変化でもあったのか?)
わざわざ追及なんてしないが、嫌味な性格には辟易とさせられる。
これで殺せないのだから鬱憤は溜まるばかりだった。
口の中に残る酒の味に舌打ちしていると、背後から恐る恐る近付く気配があった。
振り向くと、冷や汗を垂らす村長が立っている。
「ル、ルード様……」
「何だ?」
「お召し物のご準備ができました」
村長がおずおずと畳んだ服を渡してくる。
オレは服を引っ掴んで広げる。
簡素な上下で、心なしか生地が硬めだ。
着心地は少し悪そうである。
「魔獣の素材を使用しております。並の金属鎧よりも頑丈になっておりますので――」
「はぁ、そうかい」
村長の説明を聞き流しつつ、オレは両手に力を込める。
衣服は一瞬の抵抗の後に引き裂けた。
それを見た村長は驚愕する。
「な……ッ!?」
「破れたぞ」
「そ、そんなはずは……これは純正の魔獣素材なので、素手で破損するなど……」
村長は焦った顔で弁明する。
オレは破れた服を投げ渡しながら命令した。
「どうせすぐに汚れて捨てる。安物でいいから用意しとけ」
「かしこ、まりましたっ」
村長は杖を放って逃げ去っていく。
周りの村人達は飛び退いて道を開けた。
その姿を見たラトエッダはグラスを置いて苦笑する。
「すっかり言いなりだな」
「自信満々に挑んで負けたんだ。もう逆らえねぇだろうさ」
村長はオレの最終勧告に応じず、一騎打ちを挑んできた。
仕込み杖から放たれる斬撃は強烈で、他の領なら間違いなく上位騎士に匹敵する実力者だった。
しかし、現代最強の反英雄であるオレには敵わない。
敗北した村長は降伏を宣言し、それに従うように村人達も戦意を放棄した。
こうしてオレ達は、ロードレス領の村を掌握したのであった。