第20話 新米貴族は抵抗を嘲笑う
「そういえば、エリスの野郎を呼び出さないのか」
「現状、君が常に出ていた方が安全だ。ことあるごとに交代するのも面倒だろう?」
「……確かにな」
ラトエッダの考えには同感する。
ロードレス領は想像以上に愉快な土地だ。
踏み込んですぐに暴徒と化した村人が襲撃を仕掛けてくるような場所である。
自衛できるラトエッダはともかく、エリスではとても対処できない。
最近は地道に鍛練をしていたが、あんなものは役に立たないだろう。
こうして現地の人間と戦ってみて分かった。
ロードレス領は弱肉強食を体現している。
それなりの強さを持っていなければ、ここでは生きていけない。
村人達は一般人とは思えない連携力を有していた。
同じ数の正規兵を相手にしても、互角以上の戦いを見せられるはずだ。
「それにしても、エリスの呼び戻しを気にするなんて、肉体の主導権を握り続けるのが不満なのかね? 彼に押し付けて、早く裏側に戻りたいのか?」
「違う。ただ気になっただけだ」
オレは舌打ち混じりに否定する。
ラトエッダは茶化す言動が何かと多い。
普段は品行方正な雰囲気のくせに、オレと話す時だけこんな態度を取るのだ。
よほど神経を逆撫でしたいらしい。
挑発的だと分かった上で発言しているから尚更に腹が立つ。
無意識のうちに指先が鉈に伸びるも、オレは寸前で中断した。
「あんたは本当に嫌味な女だな」
「貴族としては最上の褒め言葉だよ。君もその一員なのだから、今のうちに学んでおくといい」
ラトエッダは誇らしげに応じる。
きっとこれが本性だろう。
どこまでも醜い女だ。
見事に性根が腐ってやがる。
こんな女をエリスは慕っているのだから、どれだけ盲目的なのかよく分かる。
心の中で愚痴っているうちに村がだいぶ近くなってきた。
村の人間は馬車を並べることで即席の盾を設置している。
さらに槍や剣で武装していた。
先ほどのように突撃はせず、籠城戦のような構えを見せている。
少しは考えたのだろうが、あくまでも戦うつもりのようだ。
降伏の選択肢が出ない辺り、さすがはロードレス領の住人といったところか。
オレは頬を掻きながら笑う。
「見事に警戒しているな」
「おそらく待ち伏せされている。注意しろ」
「舐めんな。攻撃してくるなら、残らずぶっ殺してやるよ」
オレは鉈と斧を回転させながら握り込むと、熱い息を吐く。
眩むような衝動は再燃し、最頂点に達しようとしていた。




