第19話 新米貴族は村を訪問する
オレは散乱する死体を漁る。
そこから金銭の類や道具類を拝借していった。
こいつらには不要なものだ。
有効活用してやった方がいいだろう。
破れた私物の鞄はこの場に捨てておく。
斧で底の部分が引き裂かれて使えたものじゃない。
裁縫道具があるわけでもないので、置いておくしかなかった。
幸いにも死体が革の袋を持っていたので、そこに荷物を押し込む。
小汚いが我慢するしかあるまい。
どうせすぐに返り血だらけになるのだから、気になることはないだろう。
ついでに斧と鉈も拾っておいた。
それぞれ腰の左右に吊るしておく。
使い捨ての武器にしては上々だ。
こいつで敵の首を刎ねるのはさぞ快感だろう。
荷物の整理を終えたところでラトエッダと目が合った。
数瞬の沈黙を経て、どちらともなく歩き出す。
オレは革袋を背負いながら尋ねた。
「それで、まずはどこへ行くんだ?」
「あの村を調査する。無視するわけにはいかないだろう」
ラトエッダは遥か前方にある村を指し示す。
進行方向からして察していたが、ここからでも無数の人間の気配が感じられた。
随分と慌てているようだ。
オレは燻る衝動を自覚し、引き攣るように片頬が笑みを作る。
「いきなり襲ってきやがった報いを受けさせないとなぁ……」
「報復行為は禁ずる。我々の目的は虐殺ではない」
「ははは、言うじゃねぇか。オレを止められるとでも?」
オレは鉈に手を伸ばしながら言う。
足を止めたラトエッダは、正面からオレを見据えた。
「逆に訊くが、本当に私と戦う気か?」
その言葉には覇気があった。
紛れもない強者の覇気だ。
一騎当千を体現するオレと対峙しながら、欠片も怯んでいない。
目の前の女貴族は、底知れない強さを秘めていた。
長い睨み合いの末にオレはため息を洩らした。
殺気を鎮めると、顔を逸らして歩き始める。
「――やる気が削がれた。あんたと殺し合うのは後回しだ。さっさと村に行くぞ」
「ふふ、そうだな」
ラトエッダが嬉しそうに述べる。
自分の思う通りに進んだことで満足しているのか。
その自信をぶち壊してやりたいが、ここで暴れ出すのは無粋だ。
オレは下らないことをするために出てきたのではない。
せっかくロードレス領という無法地帯に来たのだ。
とことん殺し回らねば損だろう。
他の面倒事はすべてラトエッダに押し付ければいい。
彼女はまだまだ利用できる。
昂りを堪えて、理性的に行動すべきである。