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第18話 新米貴族は子爵と再会する

 満身創痍の村人が駆け寄ってくる。

 ふらつきながら放たれた一撃を受け流し、その腹に槍を突き刺した。

 村人は槍を見下ろしながら崩れ落ちる。

 そのまま虚ろな目でオレを睨みながら絶命した。


 オレは槍を手放しながら舌打ち。


「これで最後か。呆気ねぇな」


 辺りには村人の死体が散乱していた。

 オレに挑んできた連中は皆殺しにした。

 大した技量でもなかったので手応えがない。

 素人にしては連携できていたものの、特筆するほどでもなかった。


 返り血塗れの服を絞っていると、ラトエッダがやってきた。

 オレは手を上げて挨拶をする。


「よう、久しぶりだな」


「ルード・ダガン……」


 ラトエッダは険しい表情を浮かべる。

 彼女は一定の距離で足を止めた。

 警戒しているのは明らかだった。


 オレは両手の血を振り払いながら苦笑する。


「辛気臭い顔だな。どうしたんだよ」


「エリスを抑え込んで表層化したのだな」


 彼女の口ぶりには批難の色があった。

 だからオレは真顔で反論する。


「オレがいなけりゃ死んでいた。むしろ感謝されたいくらいだがね」


 ラトエッダは何も言わない。

 オレの指摘が正しいと理解しているのだろう。

 彼女も馬鹿ではない。

 それくらいは分かっているのだ。

 むしろ、その先まで考えを巡らせていたに違いない。


「あんたもオレの登場を望んでいたんだろう。そうでなければ、本気でエリスを救おうとしたはずだ」


「……状況的にそれが最適だと判断した」


 ラトエッダは数拍の間を置いて答える。

 彼女は不意に近付くと、その手をオレの胸に当ててきた。


「君とエリスは一心同体。彼に死なれるのは困るだろう?」


「その通り。だからこうして助けたのさ」


 オレは周囲の死体を見回しながら言う。

 エリスでは絶対にこんなことはできやしない。

 あいつの剣術は子供の遊戯だ。

 冗談にもならない力量である。


 オレはラトエッダを見下ろすと、さらに彼女を追及する。


「オレが出てくるように誘導したな? あんたならエリスが窮地に陥らないようにできたはずだ。一体何が目的だ」


「そう殺気立たないでくれ。私は安全な旅路を確保したかっただけだ」


「安全な旅路だって?」


 オレが怪訝な反応を見せると、ラトエッダは粛々と語る。


「エリスは非力だ。本人は努力しているが、これは揺るぎない事実である。そんな彼がロードレス領で暮らすのは危険すぎる。私がそばにいるが、守り切れない時があるかもしれない」


 ラトエッダの考えは正しい。

 平和ボケしたエリスは戦いに向いていない。

 ロードレス領のような楽園で暮らすには適さない性格だ。

 仮に直前の戦いを乗り切れたとしても、必ずどこかで死んでいただろう。


「私はそこで考えた。エリスの命を守る上で最も確実な手段は何か、と」


「その答えがオレってわけか」


 ラトエッダは頷いて、真摯な目でオレを見上げてくる。


「ルード・ダガンは最強の守護者だ。君が盾となるのなら、これほど頼りになることはない」


「ハッ、オレはまんまと利用されたわけだ。それでよくオレを批難できたもんだな」


「責任転換が上手くなければ、貴族などやっていられないのだよ」


「さすが子爵様だ」


 皮肉めいた返しを聞いたオレは、静かに肩をすくめた。

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― 新着の感想 ―
[良い点] 今の所は子爵がルードの手綱を取れている点にほっとします。 ……このまま上手く手綱を取り続けられれば良いのですが。 [気になる点] >君とエリスは一心同体。彼に死なれるのは困るだろう? …
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