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第17話 新米貴族は暴れ狂う

 斧を持つ俺は、漲る殺気を全開にする。


 これで村人達は恐怖心を煽られた。

 正常な思考回路は破壊されて、焦燥感を爆発させる。

 結果、彼らは目の前のラトエッダを放置して、全員が俺に向かって突進してきた。


 これこそが俺の得意技だった。

 戦場で身に付けた空気の操作である。

 殺気の一つで相手の行動を掌握するのだ。

 狙いを俺に集中させたり、逆に逃亡を促すことが可能であった。


 俺は数々の戦場を潜り抜けてきた。

 何も純粋な実力だけで生き延びてこれたわけではない。

 こういった小技も駆使してきたのである。

 戦場そのものを支配できなければ"狂戦士"とは呼ばれなかったろう。


 馬に乗った村人達が決死の覚悟で接近する。

 真っ先に突っ込んでくるのは、二人の槍使いだ。

 並走する彼らは、刺突の構えを取っていた。


 頭上から間合いの広さを活かして、同時に突き殺してくるつもりらしい。

 実に堅実な戦法だった。


(――だが甘い)


 槍使いはほぼ同時に刺突してきた。

 俺は長柄の斧を一閃し、迫る二つの穂先を弾く。

 さらに回転する動きで槍使い達の馬を引き裂いた。


 悲鳴を上げた馬が転倒した。

 当然、そこに乗っていた槍使い達も巻き添えになる。


 その隙に俺は二人に跳びかかった。

 反応される前に斧を往復させると、馬と人間の首が二つずつ宙を舞った。

 噴き上がる四つの血飛沫を浴びながら、俺は空を仰いで微笑する。

 その視線を下ろして、迫る村人達に向けた。


 彼らは途端に硬直した。

 凍り付いたかのように動かなくなる。

 意識だけを俺に殺到させて、小刻みに震えながら佇んでいた。


「う、うああああああっ!?」


 そのうち一人が泣き喚きながら逃げ出した。

 恐怖と混乱が限界を突破したのだろう。


「おっと、待てよ」


 俺は槍を拾うと、軽く助走を付けて投擲する。

 突き抜けるように飛ぶ槍は、臆病者の後頭部を貫いた。


 臆病者はだらりと手を下げて、胴体が傾いて落馬する。

 残された馬だけがどこかへ疾走していった。


 仲間の死を目の当たりにした面々は、ただ静かに息を呑んでいる。


(良い反応だ)


 俺は二本目の槍を持ちながら満足する。


 これこそが恐怖の支配だ。

 凄惨な光景が戦場を虜にしてくれる。


 村人達は理解したはずだ。

 自分達が獲物を狩る側かと思いきや、一転して狩られる側になった。

 人数差が通用せず、自らの死を嫌でも予感させられる。


 それは鮮明な光景となって脳裏にこびり付く。

 ついには一歩も動けなくなる。


 逃げるという選択も取れない。

 その瞬間、槍に貫かれて死ぬと直感する。

 想像すればするほど思考は閉塞し、何もできなくなる。


 追い詰められた彼らが掴み取る行動はただ一つ。

 すなわち、連携も何もない俺への無謀な突撃であった。


「行くぞてめぇらあああッ!」


「くそったれが! ぶち殺してやるぜぇ!」


 村人達が目を血走らせて接近を再開した。

 彼らは互いにぶつかりながら馬で突進してくる。


「上等だ。残らず喰らい尽くしてやるよ」


 槍と斧を携えた俺は唸るように呟く。

 荒れ狂う衝動を胸に、血に染まった地面を蹴って駆け出した。

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