第14話 新米貴族は窮地に追いやられる
あれは村の人間だろうか。
馬を駆る姿はかなり手慣れている。
続々と村から現れる彼らは、総勢二十人ほどで接近してくる。
彼らは一定の距離を維持しながら疾走していた。
正規の兵士と比べても練度は勝るのではないか。
そう思わせるほどの連携力であった。
大勢の殺気が肌に突き刺さる。
「徒歩では逃げきれない。ここで迎撃する」
「りょ、了解しましたっ」
僕は子爵に応じながら剣を構えた。
ルイスとして生まれてから、それなりに鍛練を積んでいる。
まだ半人前で実戦経験もないが、ここに立つだけの覚悟はあった。
「正面は私が担当する。後ろは君に任せた」
「……はい!」
子爵の剣が仄かに発光する。
魔力を流して切れ味を強化したようだ。
本格的な戦闘態勢となっている。
向こうが僕達を襲うつもりなのは明白だった。
加えて無視できない人数差がある。
子爵は相手を殺す気で構えていた。
(僕も、やるしかない)
争い事は苦手だが、甘い考えは捨てねばならない。
習った通りの型で剣を保持し、馬に乗った村人達の接近を待ち構える。
お互いの顔が見える距離になった頃、村人達が下卑た声を上げた。
「ひひぃっ、こいつは上玉じゃねぇか!」
「傷付けるなよ! このまま持ち帰るんだからなァ!」
「男は殺していい! 屑肉にして売っ払ってやろうぜ!」
彼らは悪意に満ち溢れていた。
穏やかに会話する気は欠片もない。
それぞれが持つ武器には血の汚れがこびり付いている。
「下郎が……」
子爵が吐き捨てるように呟く。
村人達に対する軽蔑の念が窺えた。
あれがロードレス領の住人らしい。
つまり、彼らの姿こそこの地での常識なのだろう。
村人達は馬に乗って突進してくる。
槍使いは正面から迫り、剣使いは回り込むように包囲を試みてきた。
「おらぁっ!」
「遅い」
迫る槍使いの一撃を子爵が受け流した。
さらに彼女は、跳び上がって剣を閃かせる。
鋭い斬撃が見事に槍使いの腕を切断した。
落馬した槍使いは唾を飛ばして絶叫する。
「お、俺の腕があああぁっ!?」
子爵は素早い動きで槍使いの切り落とした。
鮮やかな手際だった。
これだけの行動をほとんど一瞬でこなしてみせたのだ。
やはり子爵は凄まじい実力者である。
「畜生、あの女やりやがる!」
「計画変更だ! 二人ともぶち殺せ!」
村人達は途端に警戒し始めた。
先ほどまでは余裕ぶっていたが、迂闊に距離を詰めようとせず、慎重に包囲を進めている。
僕達の周りを馬で走りながら、仕掛ける機会を窺っていた。
そのような時間がどれだけ経った頃だろうか。
一人の村人が、長柄の斧を振りかざして突進を敢行した。
忍耐力が限界に達したのだろう。
ただし、狙いは子爵ではなく僕だった。
「死ね!」
悪意の込められた声と共に斧が叩き付けられる。
僕は剣を割り込ませることで防御した。
しかし、あまりの威力に押し切られて、剣を手放してしまう。
弾かれた剣が空中を回転して舞う。