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「……そうか、でも、あの日は、私にとっての春なんだよ。ーー君の母さんから、君を託された日だ。……私は、君を託されるまで、私という個が無かったからね。君は、私にとって、宝だ。……時間が来てしまってね、最後を君に伝えなければいけなくなった」
最後は、消え去るような声で
ーーさようなら、を
「……!待って!嫌だッ!待ってッ!行かないでッ!」
佐々木は、縋り付くように必死に御津の腕を掴む。
ーーそれでも、虚しく溶け堕ちるように消え去る姿。
何もなくなった空間に、行き場のない拳を振り下ろす。
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心配気に見つめていた幽霊の加奈子が佐々木に肩を寄せて