始まりの戦火
ずっと病室にいる。
私はもうじき死ぬそうだ。医師にそう告げられた。
もう見慣れた天井を見上げる。やることなんて空想くらいしか無い。
魔法のある世界を空想する。そこは酷く残酷で、けれど自由な世界。
もし、生まれ変わるのであれば、そんな世界に生まれたい。
そんなことを思いながら目を閉じる。
今日は酷く身体が重い。病室に飾られている白い薔薇の香りが酷く濃く感じる。
ふと、目が覚める。背中が痛い。病院のベットはフカフカだった筈だが。
「目を覚ましました!蘇生は成功です!!」
そんな大きな声が聞こえる。
頭には入って来ない。
分かっているのは、ここが病室で無いこと、そして…私が私で無いことだ。
床に寝かされている。上半身を起こす。頭に巻かれた包帯を取られる。
「メリアルージュ様、お目覚めして直ぐのところ悪いのですが、今すぐにお逃げ下さい。」
スーツを着た男性が、私を見て言う。
酷く見慣れた女性が、涙目で私を抱え上げると、所謂お姫様抱っこで私を部屋から運び出す。
「良かった…。」
そんなことを言う。
あぁ、わかった。この人は私が唯一心を許している、私の理解者で、私の専属メイドだ…。
安心して身体を預ける。
「ふふ…大きくなりましたね。」
私はこの女性のことをミラと呼んでいた筈だ。
ミラマーレ・アシュ。知らないのに知っていて、覚えている。不思議な感覚だ。
ミラは私を抱えながら走っている。
城内がやけに焦げ臭い。人々が逃げまどっている。
あぁ…思い出した…いきなりの敵襲、私は流れ弾が当たって倒れたのだ。
そして恐らくは…入れ替わった、いや、もしくは、この子は死んだのかもしれない。
病弱故に私と同じくずっと天井を見上げていた少女の望み。
それは私とは真逆の、魔法のない世界に行きたいという夢だった。
突然、降ろされる。
「お嬢様、裏庭に馬車を着けさせております。それに乗ってお逃げ下さい。出来るだけ、遠くまで。」
理由は直ぐにわかった。
敵は城内まで攻め込んで来ていた。
「ミラは?」
その問いに、彼女は答えない。
「生きていたら、また会いましょう、きっと、どこかで…。」
お互いに想うことはきっと同じで、その今にも消えてしまいそうな程に薄い望みを確認しあった後、彼女は戦火の中に消えていった。
「…大変ね。」
呟く。どこか冷めている。それはきっと私が私で無いからだ。
歩く。走る。直ぐ息切れする。
けど、そんなこと慣れている。
廊下の曲がり角で兵士の声がする。
恐らく敵。私は魔法で白い薔薇を生み出すとそれを廊下の窪みにダーツのように投げた。
それは何事もなかったかのように壁に突き刺さる。
兵士とすれ違いになるように飛ぶ。
気付けば私は廊下の窪みにいて、薔薇は消えていた。
「便利ね、これ。」
魔法が当たり前にある世界。その怖さも魅力も同時に体感している。
「けど、方向感覚狂うわね。」
再び歩く。裏庭にたどり着くと、辺りを見渡す。
そして、木の陰に隠れるようにして、馬車が停めてあるのを見つけた。
薔薇なのに百合とはこれ如何に…。
物凄く気楽にかつ不定期に書くことにしました。