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異世界汽車旅行記  作者: 辻院 六孟亭
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第二章 「貨物362号事件 前編」

前編後編に分けてみました。

『こちら帝国鉄道警備隊中央司令室です。』

「もしもし、こちら蒸気電気機関車C50Eマ56 1です。今、帝国1号線上りのウズイ大橋の約2km手前を走行中に制限速度をオーバーしているように見える超大型貨物列車を発見したので確認をお願いします。」

『了解しました。ただいま確認いたします。』



・帝国鉄道警備隊中央司令室


「司令、帝国1号線上り、ウズイ大橋周辺を走行中の列車から不審列車の目撃情報です。」

「なに、不審列車だと?どんな車両だ?」

「それが情報によりますと超大型貨物列車で現在200km/hオーバーで走行中とのことです。」

「よし、帝国1号路線の貨物の時刻表と現在の運行状況を照らし合わせろ。」

「了解。………これは!司令、帝国鉄道 貨物362号がウズイ大橋の5km手前の停車駅、ハクラール駅を3時間前に無許可で通過しています。おそらくこの列車が目撃したものかと思われます。」

「分かった。貨物362号に通信を取ってみろ。」

「了解。……………ダメです。応答がありません。」

「くっ、ウズイ大橋周辺を巡回中の車両に通達しろ、直ちにウズイ大橋に急行せよと。」

「了解。…………帝国1号線、ウズイ大橋周辺を走行中の巡回車両に緊急通達!現在、帝国1号線上りを超大型貨物列車が200km/hオーバーで暴走中。列車はウズイ大橋に向かっており、大事故になる危険性あり。各巡回車両は直ちに現場に急行せよ!」

「司令、通報してきた一般車両はどうしますか?」

「一番近くの引き込み線で待機するように言ってくれ。」



・あまつばめ号 3号車


『もしもし、こちら帝国鉄道警備隊中央司令室です。お待たせしました。只今確認したところ、通報された列車は暴走状態ということが判明しました。危険ですので直ちに列車を減速させて近くの引き込み線で待機してください。』

「ぼ、暴走状態!?」

『はい。ですからすぐに引き込み線で待機してください。後は私たち帝国鉄道警備隊が解決します。情報提供ありがとうございました。』

「は、はい。分かりました。…………って切られちゃったけど、今この列車加速していってるんだけどなー。まあとにかく拓真のとこに行こう。」



・あまつばめ号 機関車


「加奈、佐江美、蜜柑!この超大型貨物列車を追ってくれ!」

「どういうことだい?拓真くん。」

「そうよ!いきなり走ってきたかと思えば、地味に斗吉もいるし。」

「いいか、まず、……」


 俺はさっきまでのことを話した。


「はあ?じゃああんたこれが暴走してると思って追っかけようっての?」

「そういういう事だ。」

「ばっかじゃないの?そんな不確かな理由で速度制限破る気?」


 確かにこの列車を追うということは200km/h以上を出すということ。

 つまり制限速度を破りこのあまつばめ号を旅2日目にして前科持ちにするということだ。

 だがもしこの貨物列車が暴走していて大事故起こしたとしたら、俺達はその沢山の人の命を見捨てた事になるだろう。だからこそ…


「ああ、分かっている。だがもしこれで本当に暴走していたらこの先のウズイ大橋で脱線、大事故だ。」

「そ、それは………」

「おーい。」

「おお、野浮!どうだった?」

「帝国鉄道警備隊に連絡したらあの貨物列車は暴走してるって、言ってた。」


 それを聞いた俺達はとても驚いた。今、大事故を起こすかもしれない列車と併走しているのだ。


「暴走って、じゃあこの貨物列車は脱線しちゃうんですか!?」

「だ、大丈夫よ。みっちゃん、きっと帝国鉄道警備隊が、……」

「多分……無理。……追いつく前に……ウズイ大橋で………脱線する……」

「そんな、」

「だからこそだ!今これを解決する術は俺達しかいないんだ。」

「でもどうするんだい拓真くん、先頭車に追いつけたとしてあの大量の貨物を引いた車両をどうやって止めるのか。」

「大丈夫だ。それなら考えがある。まずあまつばめ号を貨物列車の横に付ける。そしたら鎖か何かで先頭車とこっちを結ぶ、後は両方の機関車からブレーキをかける。」

「オーケー。それで行こう。」


 佐江美は蜜柑と協力して機関車の速度を上げ始めた。


「加奈と野浮は貨物室で鎖か何か頑丈そうな物を持って来てくれ。」

「わかったわ。」

「斗吉と俺は研究室だ何か使えそうな物が無いか探しにいくぞ。」

「……わかった。」


 10分後、機関車が貨物列車の先頭に追いついた。


「よし!あまつばめ号の操縦は蜜柑、貨物列車の操縦は加奈と佐江美、貨物列車と鎖を結ぶのは俺と野浮と斗吉だ。俺たちが鎖を結んだら発煙筒を焚いて合図を出すから加奈と佐江美はそれを確認したら汽笛を鳴らしてくれ。鳴り終わって5秒後にあまつばめ号と貨物列車で同時に非常ブレーキをかける。いいか一刻も早く減速させるぞ。」

「オーケー。」

「ええ、わかったわ。」

「わかりました。」

「わかった。」

「……わかった。」


 ガシャンガシャン ガシャンガシャン


 超大型貨物列車を引く機関車は世界最大級の大きさで、形式は『4D62帝』世界最大のパワーを誇る。

 車体も大きく、全長52.32m、車軸配置は2DD2-2DD2、最高時速370km、


「2人とも気をつけろよ。」

「わかってるわ。」

「ええ。」


 加奈と佐江美は貨物列車側の運転室に飛び移っていった。


「俺たちも行くか。」


 その後、俺たちもあまつばめ号の先頭と貨物列車を繋ぐために屋根に上がった。


 ガタンガタンゴトンゴトン


「お前ら、絶対に落ちるなよ。それと俺が触って移動した所以外を絶対に触るな、高温の蒸気のパイプだからな。」


 大抵の蒸気機関車は車体の両端部分に細い足場と手すりがついている。

 だがそれ以外にも高温の蒸気パイプ、ヘッドライトへと伸びた電線など様々な物も並んでいる。いくら軍手をしているとは言え、触れれば火傷をするだろう。

 そうこう思っているうちに俺たちはあまつばめ号の先頭、デッキ部分についた。


「よし、俺が腰に鎖をつけて貨物列車に飛び移る、野浮はあまつばめ号に鎖をつないでおいてくれ。」

「わかった。」

「斗吉は俺が合図したら発煙筒を炊いてくれ。」

「………」


 無言だが、首を縦に振ってるから大丈夫だろう。んじゃ気を引き締めて、


「せいっ!」


 ガンッ


「拓真!大丈夫か!?」

「ああ、大丈夫、ちょっと滑っただけだ。」


 あっぶねー、もし手すり掴んでなかったら列車から落ちてたぜ。


「気をつけろよ、落ちたらしゃれにならない。」

「わかってる。」


 あとは鎖をしっかり取り付けて、これでよし。


「おーい、斗吉ー、発煙筒を炊いてくれー。」


 パシュー

 ボォォーーーーー

 

5、4、3、2、1、来る。


「衝撃に備えろ!」


 ガシャン!キィーキッキーー


「これでいけるか?」


 ガシュガシュガシュガシュ


「拓真くんーー!拓真くんーーー!」

「拓真、蜜柑が何か言ってるぞ!」

「何、蜜柑が?」

「拓真くんーー!速度がーー!全然ーー!落ちてないよーーー!」


 ガシュガシュガシュガシュ


 何か言っているようだが、機関車がうるさくて聞こえないな。


「野浮、蜜柑は何て言ってる?」

「速度が落ちてないらしい。」

「何?落ちてない!?どういうことだ!」

「貨物列車の方が重すぎるんだ。」


 そうか、両方ブレーキをかけても貨物列車の貨物が重すぎて全くブレーキが効いていない!


「何か手は、……」

「……拓m……拓真……」

「ん?」


 なんだ?斗吉が何かつぶやいている!


 キィーー、キィーーー


「高圧……逆…噴射……。」


 こう、あつぎゃく、ふんしゃ?

 ああ、高圧逆噴射装置!

 高圧逆噴射装置、このあまつばめ号についているブレーキの一種だ。

 機関車の先頭部に付けられており、機関車の下にある蒸気タンクから高圧の蒸気を進行方向に向かって発射するものだ。

 このブレーキ方式は俺たちが開発した物で、前先重工とも話が進んでいる。


「野浮!高圧逆噴射装置だ。」

「ええ、何だって!?」

「高圧逆噴射装置だよ。あれを使えばもっとスピードを抑えられる。」

「でもあれはまだ調整中だろ!使ったら吹っ飛ぶかもしれない!」

「やるしかないんだ!このままじゃウズイ大橋に突っ込むぞ!」

「……わかった。拓真を信じよう!」

「よし、それならすぐに運転室に戻るぞ!」


 そして俺たちは運転室に戻った。


「蜜柑、今から高圧逆噴射装置を使う。」

「逆噴射装置ですか?でもまだ完成してないんじゃ……」

「今はそんなこと言ってる場合じゃない、とにかく作動キーを、」

「わ、わかりました。」


 作動キーとは高圧逆噴射装置のロックを解除する鍵だ。

 万が一のことを考え誤作動しないように蜜柑が管理している。


「高圧逆噴射装置、ロック解放、作動開始5秒前、4、3、2、1、逆噴射!!」


 ガシャン、プシューー、ゴォーーーー


 ものすごい轟音とともに列車は大きく揺れた。

 

 キイーーキィーーー


 けたたましい金属音が響き渡り、列車は一気に速度を落とす。


「拓真くん、速度が250km/hまで落ちたよ。」

「まだ50km/hオーバーか、だがいいぞこの調子なら、……」


 ドガーーン シューーー


「なんだ?」


 突然前方から大きな爆発音が聞こえた。


「なんてこった。高圧逆噴射装置が、」


 窓から前は逆噴射装置が大きく煙を上げているのが見えた。


「やっぱり蒸気圧の調整ができて無かったんですよ。」

「仕方ないすぐに逆噴射を切るんだ、あのままだとブレーキの圧力弁にまで影響が出てしまう。」


 シューーシュップシュー


 次第に煙が収まっていった。


「ブレーキ弁はどうだ?」

「異常なしです。でも逆噴射装置が……」


 どうする、50km/hオーバーならまだ脱線する可能性が、だがこれ以上列車に負荷がかかればどうなるかわかったもんじゃない。どうすれば……


「橋まで……残り5分ちょっと……」

「せかすな!えっと、えーと、」


 考えろ考えろ考えろ!

 今ブレーキをかけても負荷のかかり過ぎで使えなくなるだけだ、最初に使った時から少し時間を開けないと、ならどうすればいい?

 逆噴射も使えない、他にブレーキになるもの、ブレーキになるもの………


「回生、ブレーキ。」

「ん?」

「回生ブレーキですよ!回生ブレーキを使えば普通のブレーキに影響は出ません!」

「そうか、そうだその方法ならいけるか!」


 回生ブレーキ、モーターは普通電気を使って回転する。

 それを逆にモーターを発電機として回転軸を回転させることで、電気を発生する仕組みのことだ。

 C50Eマ56 1には炭水電動車にモーターが付いている。つまりそれに回生ブレーキと同じことをさせればいいということだ。


「斗吉、炭水電動車のモーターに回生ブレーキの方式を入力しろ。」

「わかった…」


 ピッピッピッ

 グォォオーーン


 モーターの激しい回転音が鳴り響く


「いいぞ!これなら!」


 キィー、キッキィーーー


「くそっ、橋に差し掛かった!」


 並走する列車は鎖で繋がれたままマシナ大橋に入った。

 約40km/hオーバーで列車が橋を駆け抜ける。2編成ある分レールには多大な負荷がかかっていた。


 キィーーーーギリギリギリ‼︎


「くそっ、だめだ、列車が!」


 ガッゴゴゴゴ ガツンッ


 貨物列車は遠心力で片輪が浮き上がり、こちらの車両に傾いてきた。

 幸か不幸か俺たちの列車は貨物列車が傾いているおかげで、片輪が浮き上がることはなかった。俺たちの列車より左側はウズイ村が広がっている。


「このままじゃ脱線する!みんな、逃げっ……」


 ガンッ


 その瞬間、列車が大きく跳ねた。


 ガタンッ ガギィーーギィーー


 列車は大きく揺れ、ついには脱輪した。


 ガガガガッ


 軌道のバラストにめり込み、列車は片輪をレールに引っ掛けながらマシナ大橋のカーブを曲がっていく。


 ガダガダガダガダ


 それでも着々と列車は遠心力により外側へとずれていく。そして……


 ゴッゴゴゴゴーーーー  プシューーーー………

旅二日目で事件はいきなりかな?と思いつつ書きました。

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