第一章 「出発進行!」
陸と海が6:4そんな大地の広がるこの世界では6つの国が栄えた。
国の科学は急速に発達し、帝国が運営する鉄道が敷かれたのだ。
それぞれ各国に1つ大きな駅が作られ一駅850番線以上プラットホームを備えており、それを人々は帝国駅と呼んだ。
既に鉄道は個人のものとまでなっており、機関車を会社や個人に販売するメーカーもいくつか存在していた。
機関車もメーカー同士での開発競争で時速200km/h以上は普通に出せる時代だった。
機関車は蒸気機関車が主流だが、帝国駅では地下のプラットホームもあるため排煙問題が指摘され一部電化区間を設けた。
それにより帝国駅の2km手前から架線が張られ、機関車には炭水車の内部にモーターを内臓し、上部にパンタグラフ(集電装置)が備えられた。
それらの機関車は蒸気電気機関車と名付けられた。
第一章 「出発進行」
「よし!みんなそろったな!」
俺はうずうずした気持ちでそう言った。
「張り切ってるね〜拓真くんは。」
めんどくさそうに喋ったのは 新里 加奈 だ。マイペースだがいざという時は頼りになるやつだ。
「当たり前だぞ加奈?これもこの俺 線上 拓真 が2年前から計画した、世界一周計画のおかげだからな。」
「何言ってんのよ拓真!あんた設計に少し関わっただけで資金はみっちゃんが出してくれたし、プログラミングは斗吉がやったんじゃない!」
このうるさいのは 葉山 佐江美 だ。いつも何かつっかかってくるが、しっかりものだ。
ちなみにみっちゃんとは 前先 蜜柑 のことで、気が弱いが大手メーカーの娘であり、いくらか資金を出してもらっている。
相見 斗吉 はおそらく男子メンバーの中で、1番頭が良いのだが無口である。
「それもふまえて言っているんだ。」
「まあまあ2人とも、今は大事な出発式なんだよ?」
こいつは 盛江 野浮 、男のくせに気が穏やかで優しいやつだ。
「それも…そうだな、では気をとりなおして、このたった6人しか所属しないサークル、鉄道車両研究所が製作した『あまつばめ号』の説明をしていきたいと思う。」
「まず!この車両の設計、考案したのがこの俺 線上 たk…」
「はーい分かったから、てかその流れやったし。」
「うるさいぞ佐江見!いいから聞いておけ!この車両は機関車+4両編成で、機関車の形式は『C50Eマ56 1』重量115t、全長29.5m、軸配置は2C2と小ぶりだが最高時速230km/hで、機関車には自動給炭機を2機搭載、ボイラー先端部に高圧逆噴射装置が設置してあるのだ。炭水電動車には石炭20t、水は機関車と炭水電動車合わせて40t積むことができる。更に炭水電動車内部にはモーターと一緒に非常発電機が積んであるので、いざという時が来ても平気なのだ。では次に客車設計担当の佐江見!頼む。」
「いちいちえらそうなんだから。」
「まあまあ、」
「じゃあ1両づつ説明していくわね。基本的には4両とも20m級鋼製客車を改造したものよ、まず最初に1号車、形式は『ジカスケフ91 1』研究車よ。これは、いつも拓真の家の研究室でやってたことを、この車両でも出来るようにしといたわ。次に2号車『ジカスロネシフ31 1』寝台食堂車、これは、衣食住する場所ね。3号車は『ジカスハフ貨31 1』半貨物客車、車両の3分の1は貨物室で、残りは普通座席で出来ているの。最後に4号車『ジカスハテフ31 1』展望車、これは私も力入れたんだ~。他の車両と違って、台車は2軸から3軸に増やしてあるし、内装も暖色系の装飾にしてあるの。ちなみに全車の屋根に開閉式のソーラーパネルを設置してあるわ。まあざっとこれくらいね。」
「よし!じゃあ次にプログラミング担当斗吉!」
「………」
「いや、なんか喋れよ。いくら無口でもせめて反応しろよ。」
我ながら思わず声に出してツッコミを入れてしまった。
「おーい斗吉くん?プログラミングは全部君がやったんだから、何か説明してよ?」
加奈の呼びかけでようやく口を開いた。
「………プログラム……僕が組んだ。………機関車……ある程度……タッチパネルで……動かせれる。」
「………あーもうじれったい、後は俺が説明する!まあだいたいは給炭機や電気系統をタッチパネルなどで操作可能、ということだ!よし、あらかた説明は終わったな。他に何か説明しときたいやつはいるか?」
「あ、あのー私、ちょっとお金出したくらいだからあんまりよく分からないんだけど、いちよう総工費を言うと1億5せn……」
「ストーップ蜜柑!ストップだ、それを聞くと今ここにいる全員がお前に対して申し訳ない気持ちになる。」
危なかった、今のを聞いていれば相当高額な金額を耳にし、旅に出たとしてもみんな蜜柑に対して謝罪の思いが耐えないだろう。
「まあ、拓真の言うことも確かね。実際みっちゃんのお父さんとは、『娘と一緒に楽しい旅をしておいで』って言われて機関車+4両編成分の製作費出してくれたけど、今その金額を聞くのは気が引けるわ。みっちゃん、ごぬんね。」
どうやら佐江美も分かってくれたようだ。
「蜜柑は資金面の方で大変助かっているからな、総工費のこともいずれ話す時が来るさ。」
「う、うん。」
「じゃあ次だ!機関士の当番表を発表する。まずA班、機関士 線上 拓真 、機関助士 相見 斗吉 、B班、機関士 新里 加奈 、機関助士 葉山 佐江美 、C班、機関士 前先 蜜柑 、機関助士 盛江 野浮 、以上だ。」
「ちょっと待って、なんで私が機関助士なのよ。」
機関助士とは耐えず石炭を釜に入れるとても大変な仕事だ、それに選ばれたことに佐江美は怒っているのだろう。
「いいか佐江美?お前は男より力があるじゃないか、むしろ男っ気でしか出来てi………」
ドカッ
「ぐふっ」
み、みぞおちが
「私のどこが男っ気でしか出来てないのよ。」
佐江美め的確にみぞおちを決めてきやがる。
「そ、そのことを言っているんだ。それに自動給炭機を2機搭載しているんだ、ほぼタッチパネル操作だから安心しろ。」
「はあ、もういいわよ。」
「ふっ、素直だな!では最後に移動経路の説明をする。今現在はここ、ホンニ帝国マ区第39番自家用線にいる。ここからとなり駅のベルラム帝国駅に向かう、使用路線は帝国1号線で3日間かけて移動する。」
「ベルラム帝国って農業とかで有名だよね。」
「その通りだ加奈!まずは食料調達と言った所だ。ちなみに食料を保存する貨物室の管理は野浮がすることになっている。」
「うん、何かあったら僕に言ってね。あと、今は4日分の食料を積んであるよ。」
「まあ予備を考えたらそんなもんか、おっともうそろそろ出発だな。他に喋る事もないからこれで出発式を終了するぞ?」
俺はみんなの同意を得たのを確認し喋り続けた。
「よし!じゃあ展望車に野浮、佐江美、蜜柑が乗って安全確認をしろ。機関車は俺と斗吉それとフォローとして加奈が乗車する。いいな!」
そう言った後みんな列車に乗り込み、俺も車両の周りの安全確認をした後に運転室に入った。
運転室には赤々と燃える大きな焚口や所狭しと並ぶ配管などがあった。
「おお!やっぱり火を入れるとかっこいいな!」
「当たり前じゃん、私もここの調整した時に火を入れるのワクワクしてたんだから。」
「加奈も機関車に対しては反応がいいな!そこで一言も喋らずに座っているやつも何か言って欲しいものだが。」
「………」
何も言わないがいつもより張り切ってるように見えるので、今は良しとしよう。俺はそのまま運転席に座った。
「ボイラー圧力、シリンダー圧力正常!出発信号機よし!」
そして大きな声で言った。
「出発進行‼」
同時に俺は思いっきり汽笛ハンドルを引いた。
ボォォオーーーーーー
太い汽笛と共に加減弁を操作し機関車はゆっくりと動き出した。
ガッシュ…ガッシュ…ガッシュ
「加奈、異常な所は無いか?」
「うん、今のところ無い。」
「………自動給炭機……正常……」
「お、おう。」
斗吉のやつ初めて自分から口を開きやがった。それなりに斗吉も楽しいようだ。
「ホンニ帝国マ区第39番自家用線制限40km/h確認!」
慎重に速度制限標識を読みながら加減弁を操作する。
「マ区本線入れ換え信号確認!」
ゆっくりと一面線路の上を走り、様々な信号機や標識が近づいてくる。
「ホンニ帝国北西門通過確認!」
そして線路が8本も並ぶ大きな帝国1号線に入っていく。
「帝国1号2番線信号確認!制限解除!」
制限解除標識を抜けた後はどっと力が抜けた。
「ふう、やっと抜けたー。あんなに信号が多いと、力が入って仕方がないよなー。後は逆転機を操作して加速させておこう。」
「どうやら150km/h以上出しても問題無いようだね、主連棒や連結棒、クロスヘッドも正常に動いているし。」
「まず1日目は200km/hを目安に走行させておこう。加奈はもう休んでもいいぞ?」
「ほーい。」
そう言って加奈は炭水電動車の連絡通路を抜けて行った。
「にしても門から出ると一面草原しか無いなー、そういえば斗吉は旅先で何かしたい事は無いのか?」
「……………これ……。」
そう言いながら斗吉は、普段から持ち歩いているタブレットをこちらに見せてきた。
「えーと何々?カレニカ帝国主催、機関車レース?お前見た目のわりに過激な物が好きなんだな。」
「………」
「まあ、今向かっている駅の次に近いのはカレニカ帝国だし、考えておいてやろう。まだ俺達の旅は、始まったばかりだからな!」
と、かっこよく決めたものの、斗吉は反応さえしてくれずにそのまま無言の空間が続き、夜を迎えた。
「おーい拓真ー、どう?調子は。」
「やっと交代かー、加奈も佐江美も遅いぞ!この万年無言男子といっしょにずっといると、何も喋れなくなりそうだ。」
実際、出発から食事の時の返事以来なに1つ喋っていないしな。
「あら、大げさね。せいぜい休むといいわ。」
「ふん、後は任せたぞ。」
「はいはい、」
そう言って加奈と佐江美に運転室を任せて後にした。
「ふぁ〜疲れたー、晩御飯を食べたらすぐに寝よう。」
交代をしてなおも無言の斗吉といっしょに、機材が所狭しと並ぶ研究車を抜けた先にある寝台食堂車のドアを開けた。
ドアを開けた先には1番手前の四人がけの机の上に、ラップで包んだ食事プレートが二人分置いてあった。
「野浮も蜜柑ももう寝たのか、俺たちもさっさと食って寝ようぜ。」
その後夕食を食べ終わり、寝台室に行って自分の部屋に入りゆっくりと寝た。
ガタンゴトン、ガタンゴトン、ガタンゴトン……
「ふぁーよく寝た。今日から列車生活か、まずは朝飯だな。」
俺は食堂室に向かった。というかそもそも寝台車と食堂車は兼用なので少し歩くだけでいいのだ。
「あ、おはよう拓真。斗吉はとっくに食べて研究車に行ったし、蜜柑はもう運転室にいるからあとは拓真だけだよ。」
食事は朝に運転当番をするやつと決まっていた。
「サンキュー野浮、んじゃいただきます。そういえば野浮と蜜柑が朝の運転当番か、まあ落ち着いてやれよ?」
「分かってるよ。そういえば今日……」
ガッタタタン!ガッタタタン!ガッタタタン‼︎
「な、何だ?」
窓を見るとものすごい速度で俺たちの列車を追い抜かす車両が見えた。
その列車はとても長く、いまだにすぐそばを音を立てながら走っている。
「これは…帝国鉄道の超大型貨物列車だ!」
説明しよう!帝国鉄道所属のこの超大型貨物列車とは、各帝国駅に石炭や石油などを運搬する長距離、長蛇列車である。
機関車に連結される貨物は500両以上にも及ぶのだ。
「でも何であんなに速度出すんだろう?帝国1号線は制限速度200km/hだよね。」
確かにそうだ。俺たちを簡単に追い越したってことは200km/hなどゆうに超えているだろう。
「ちょっと待て、確かこの先はウズイ大橋だったな。あの橋は大きく右にカーブしていたはずだ。もしあの速度で橋にさしかかったら間違いなく脱線だぞ!」
ウズイ大橋はウズイ村にかかる高さ400mの大きな石橋だ。
村を一望できると有名だが、列車が脱線し村の中心に落ちた事例も過去に聞いたことがある。
「まさか、考え過ぎじゃないか?確かにあの速度は異常だと思うけど帝国鉄道側の事情もあるんじゃない?」
「いや、事故が起きてからじゃ遅いんだ。考え過ぎだったらそれはそれで俺が責任を取る。お前は電話で帝国鉄道警備隊に連絡しておいてくれ。」
「わ、分かった。」
そう言って食堂を飛び出し、機関車に向かった。
初小説ですのでお手柔らかにお願いします。
作者は鉄道好きなのですが、浅知恵なので多少無茶苦茶な所もあると思います。ご了承ください。