自分でもキモいし下手だと思うが、ヤンデレ後輩好き。
目を擦りながらやった。
真っ暗の部屋の中、たった一つの光はモニターに映るエロゲのワンシーン。
右手はマウスに乗っけカチカチとストーリーを進める。
「目が覚めるとそこは暗い部屋。水がポトポトと地面にシミる様に滴る音」
何となく読み上げ、左手でポテチの袋を漁る。無造作に掴んだポテチを口へ運び、ボリボリと粉々にし、次の場面へ。
「息を吸う音が直ぐ側で聞こえる。少々、乱れた息づかい。正体を確かめようとも、黒一色の景色は変わらない」
特殊部隊。通称、対大天使専用部隊。茜を含む第一部隊の隊長、副隊長以外の四人は、この新たな部隊に配属された。
基本は大天使降臨時に出動して退治する部隊なのだが、魔力温存のために通常天使降臨時は一切の出動を禁止されている。
「はぁ。暇だ。暇すぎる……」
しかし、大天使が降臨する事は全くなく、この星では穏やかな時間がながれていた。
茜達が抜けた第一部隊には新人の戦闘員が編成され、その新人君たちが挨拶に来たのは今から一週間前。その間、茜は一切外に出ることはなく買いためていた食料で日々を過ごしていた。
「ふう、続き読むか」
茜はジュースを飲み干し、再びパソコン画面に目をやる。
「すると、何やらカチカチと音がしたあと。目の前に灯りが――ッ!?」
パソコン画面には明かりに照らされた女の顔が突然映り込み、部屋のドアが乱暴に叩かれた。
遂に大天使降臨が降臨したのか!? と言うわけでは全くなくいつも通りの時間にいつも通りの来客が来ただけだ。
「ビックリしたぁー。ったくドア叩かなくても呼び鈴押せばいいだろ」
そう言うと茜は、来客に応じることなく布団に潜り込んだ。
「今日こそは出ないからなー。絶対に出てやるもんか」
何故なら、この客は多少どころではなく異常に厄介だ。
「せんぱーい。今日もかわいいかわいい、空彩がお世話しに来ましたよ~」
今日は絶対に開けない。思いっきり居留守を決め込んでやる。お休みなさい。
「あ~!居留守だ!今さっき侑咲先輩に確認したので居ることわかってんですからねぇ~!」
あいつ余計な事を。てか視界を共有できたら俺のプライベートバレバレじゃないか。ズボン脱いでずっとアソコを眺めててやろうか。
空彩の声が聞こえぬ様に枕の下に潜り込み、掛け布団をかぶる。
「聞こえてますよね!?ちょっと先輩!」
遂にはドアを叩き始めた。うるさいししつこい。
「あ、そうなんですね。はいはいわかりました。じゃあ先輩にあらんことをされたと言いふらしちゃいますよ~。部屋に連れ込まれて押し倒されて~」
「ちょ、ちょ待ち!それはまずい。空彩ちゃん待って!」
しまった。
「やったー!ドアが開きましたよ~。それじゃあお邪魔しますぅ」
「それも待ってほしいんだけどなあ……」
空彩はドアと茜の隙間を通り、部屋に侵入してきた。そしてベッドに倒れ込みロングヘアーが散らばり、鼻歌交じりにテレビのチャンネルを変え始めた。
空色の瞳に空色の髪色、空色のワンピースを来てバタバタと足をばたつかせる。
「ああ~いい匂いですね~。やっぱり一日に一回は嗅がないと駄目ですよぉ」
「本当に遠慮がないな。嗅いだんならさっさと出てってね、うん。見た目が可愛くてもドン引きだから」
「えぇ~。可愛いですかぁ?うへへ、嬉しいですぅ」
「その部分だけ抜き取るな、前後が一番大事な所だぞ」
「よし!耳かきしてあげる!こっちにおいで~」
「全部聞いてないね!?」
空彩は体を起こし膝を手でポンポンと叩く。何を考えてるのかさっぱりわからない。
初めて顔を合わせたのは一週間前で最初は大人しい年下の女の子、というイメージだったが翌日からは豹変したようにコミュニケーションを図ってくる。一体何があったのだろう。
自分で言うのも何だがイケメンでもイケボでもない、初日に会ったときに何か惚れさせる事をした覚えもないのだが……。
「よしよし、良い子ですね~。それじゃあ左耳からしますよ」
嫌そうにしていた茜だがちゃっかり空彩の膝に頭を乗せる。可愛い子の膝枕を断る理由と権利を茜は持ち合わせていないのだ。
「あの、聞きたいことがあるんだけど?」
「はい、なんですか?」
疑問に思っていたことを口にしようとする。
「何でくっついてくんの?」
少し棘を含む言い方だったのかもしれない。度が過ぎてるし迷惑だが、正直な話二人の時間はさほど悪くはないのだ。それは空彩には伝わっていないだろう。だから今の言葉で少し傷つけてしまったのかもしれない。
「ああ、悪い。少し言い方が……」
「大丈夫ですよ。はい、そうですね。理由は言えません。ですが深い事は考えなくてもいいです。空彩ちゃんは俺のこと好きなんだな~って思っていてくれてればいいですよ」
「それ、マジで言ってる?遂にモテ期が来たかな」
「私だけにモテる期間でですね」
それは嬉しいけど嬉しくない。
「む、どうせならみんなからの方がいいな――いてっ」
耳の奥の方に棒が当たり少し刺激が走る。
「あ、ごめんなさい。先輩が自分のロクでなさを理解してなくて、ほんっとに駄目人間なのに図々しく女の子からモテようとお考えになっていたので。先輩は私からモテていればいいんですよ」
「あれ、なんかやばそう」
ちょっと気づいてしまったこれは、ヤンデレというやつでは?
どことなく空彩が茜の腕を力強く握る。それは「絶対に逃がしませんよ?ずっと私の側に居て下さいね?」という意味も含まれている様だった。
「やばいやばい寒気がしてきたうん」
「寒いんですか?じゃあ耳かきやめて私と抱きつき合いましょう」
「え」
耳かき棒を放り投げ後ろから茜を抱きしめ、耳裏から息を吐かれ体がゾクゾクする。
「ん、あれ……?」
「どうしました先輩?」
「いや、勘違いだったみたい。ってか離れろ!」
後ろから回された手を振り払いベッドから離れる。すると、間髪入れずに空彩が鼻先がつくほど距離を詰めてくる。
両手首をガッチリと握られ、そのまま強制的に空彩の腰後ろに手を引っ張られる。
「うえっ」
「ふふ。逃がしませんよ?この時間だけは私と二人っきりで居て下さいね??」
「は、はい……」
空色の瞳は空というより深い深い海の底のような奥深さが露わになっていた。その深海のような黒い青が茜だけを見つめ、考えている事が全て見られそうな感じがする。
飲み込まれ呑み込まれ、交わり混じりそうな不思議な。そう、海の深くにゆったりと沈んでいくような体の重さ。
「いい返事です。それじゃあ今日は第一会議室に集合しないといけないので早めにいきますね?」
「う、うん。がんばって……、何かあったら頼ってきてね……」
空彩は握る手首を放し、ドアの前に歩く。
次は自分の両手を後ろに回し、コトンっと首を横に傾ける。
「ありがとうございます、頼りにしますね。それじゃ、空彩深海、仕事に行って参ります。先輩っ!」
空彩深海は目元まで歪ませ、可愛らしくニコリと微笑んでみせた。
明日からばちこりと物語が動き始めます。毎日投稿するのでよろしくお願いします。