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序章 新生天襲械都エクセクラ 2




「ちょ、何やってるの!?」


 叩き落とされた茜は地面スレスレで止まることができた。両脇では百キロを超えるスピードで車が走っている。


「危なっ。もう限界かも!」


 茜は地面を蹴り飛翔し、蒼光が後を追尾する。剣を握り直し天使の槍一閃を躱し、斬りかかる。天使も負けじと滑らかな身のこなしで躱していく。剣でいなし、槍は受け止める。

 蒼の閃光と白の閃光が火花を散らし、激突する。互いは一歩も譲らず、得物を振リ続けた。


「ッ――!」


 茜は上空に急上昇し、天使も間髪入れずに後を追う。

 すると、茜は何の前触れもなく旋回、二人の距離は瞬く間に詰め切れる。天使は突然の事に完璧な対策を施せない。


「喰らえッ――――」


 斬るのではなく叩き割るに近い感覚で剣を思いっきり振り切った。

 天使はその衝撃を受け取る事しか出来ず、一直線に地上へと落下する。


「もういっちょ! 貫穿する絶光(サフィア・シャフト)ッ!」


 その天使に狙いを定め、剣を右脇に取り剣先を後ろに下げ追撃を発射。レーザーは天使を巻き込み地と天を繋ぐ蒼光の柱になる。


「ちょっと!下に人がいるのよ!? もし巻き込んだら――――」

「いや、その心配ない。この程度ならあの天使は受けきれる。……できればダメージ入っててくれればいいんだけど」


 その予想通り、天使は地面に激突する前に攻撃を吸収しきっていた。

 

「ダメージは袖が破れて頬に掠り傷一つか……まずいな」


 天使はすまし顔で高速道路を走るトラックの上に平然と立っている。頬の切り傷から垂れる血をペロリと舌で舐め取り、金色の髪を耳にかけ、


「この程度……?」


 艶やかな唇を動かし周りの人間に目もくれず茜に向かって翼を羽ばたかせた。


「もうっ。こうなったら私が殺すわ!しっかり天使を見てなさいよって。あんた……」


 茜が一向に天使を殺さないので埒が明かないと思った侑咲は、自ら天使を射殺するために狙撃体勢に入ろうとすると、とある事に気づいた。


「もう魔力ないじゃない! って事は昨日寝てないわねっ?」


 侑咲の言う通り茜にはほとんど魔力が残されていなかった。


「え、いや。……ごめんなさい! 昨日発売されたゲーム徹夜でやってました! 何でアレ、お願いします!」

「ばっかぁーっ!……はあもうっ、全部あんたのせいにするからね!? ……それじゃあそこを動くな、自分の手を見ろ――歯を食いしばれぇええええ!」


 狙撃。侑咲は一発の魔弾を近づいてくる天使ではなく茜を標的として発射した。


「ぐッ――――!?」


 必中の魔弾は茜の心臓を捉えた。


「よし! これで少しはストレス解消した!」


 自分が狙撃した対象に弾が当たるのは嬉しいが茜は仲間だ。その筈なのに心臓に弾を撃ち込んでストレス解消とはどういうことだろうか。


「こっちも魔力回復しました」


 魔弾を受けた茜はピンピンしている。傷一つなく、どこかさっきより元気に感じるほどだ。


「よーし。じゃあさっさと片付けて、早く帰ってきなさい!」

「了解」


 そう侑咲の撃った弾は傷つける魔弾ではなく、当たった人物の魔力を回復させる回復の魔弾。この効果で、一時的に魔力が全回復。

 天使はゆっくりと上空に戻り、二人は向き合う。


「残念だけど侑咲さんの命令だ。さっさと片付けて帰らせてもらう」

「確かにさっきとは比べものになりませんね。では私も億劫ですが本気を出しましょう。私にも帰る場所があるので」


 正面で向き合った両者は互いの得物の切っ先を突きつけ――。


「ッ――!」


 再び剣と槍の鬩ぎ合いが始まり、姿をくっきりと捉えることは不可能となる。そこには何本もの閃しか見えず何処に向かって剣を振っているのか、何を狙って槍を突いているのだろうか見当もつかない。


 一進一退の攻防を繰り返し雲を見下ろせる高さまで空中を移動した。

 お互いの首筋に剣先と穂先を付け、茜の首からは少し血が垂れている。


「どうする。あんたの穂先は俺の首筋にピッタリひっついてる様だけど、俺の方が少し速いぞ?まぁどんぐりの背比べだと思うけど」


 このまま首を斬ろうとすればどちらも死ぬ。先に手を動かそうが関係ない。


「俺は勿論の事あんたも死にたくないだろ? 帰る場所があるって言ってたし。……一旦距離を取ろうか。天使なんだから卑怯な事はするなよ? 俺もしないから」


 このままでは決着がつかないと思っての提案だ。それに天使も無言で頷き賛成の意思を示し、両者は得物を相手に向けたまま、徐々に距離を取っていく。

 

 どちらも向けられる武器を払いのけ攻め込むということはしない。それをする程卑怯ではないし、侑咲も狙撃することはしない。最低限、殺し合っている両者への敬意からだ。

 そして、ここで攻め込んだとしても勝利へと結びつかないのは、死の瀬戸際にいる二人が一番わかっていた。


 剣先と穂先が向かい合い茜は十分な間合いを取ると退くことをやめた。だが、天使はそのまま後ろへと下がり続ける。


「ん? どうした。怖じ気づいた? このまま退くか?」

「いえ。このまま互いを殺そうと必死に目を凝らしていても決め手がありません。ので、私は先の覚悟を無駄にしない為に奇跡をぶつけます」


「奇跡ね……。俺もそっちの方が都合がいい。あんたが本気の一撃を放ち、そのあと俺が生きてれば勝ちでいいのかな?」

「いいですよ。全てを防ぎきりそれでもなお、私を斬ることが出来ればですが……」


 天使は自分が持ち得る最強の技を使う様だ。


 それは茜にとってはとても都合のいいことで、これ以上戦闘を長引かせるわけにはいかなかったのだ。

 何故なら、魔力回復弾は一時的の魔力回復。時間が経ちすぎると魔力、ついでに体力もすっからかんになって倒れてしまうので戦うとか論外になってしまう。


「それでは……。名前を外界の空気に触れさせる事をお許し下さい。私はその罪を以て裁きの炎を焚きます」


 天使はそっと目を閉じる。そしてゆっくりと口を動かし始めた。


「――――悪に裁きあれ、罪に炎あれ。我に奇跡よ、汝に神秘を。この身は天炎への礎。祖は炎より具現化せし天炎への昇華、其は業火ではなく安らかなる裁きの炎」


 天使は槍を地面と平行に持ち唱えると、茜の周りに謎の魔法陣が無数に発現する。


「ウリエル様赦しを、そして我に加護を与えたまえ!」


 槍は握られていた手を離れ、命が宿ったように自ら廻転し始める。


「薙ぎ払うは我が薙槍(ていそう)、貫き穿つも我が穿槍(せんそう)! その奇跡は偶然ではなく必然の裁き! 旋転せし(リヴォルヴ・)裁炎の槍(リヴァイヴァル)ッ――――!!!」


 その叫びと共に槍は茜の視界から消滅、続いて数え切れない程の炎槍が周りを取り囲んでいる事を確認した。




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