なくした友達
私はちはる。小学三年生。
今日はお兄ちゃんのお墓に行くの…じゃ。
うーん。前世の記憶が残っているのがここまでつらいとは。本当に人生は思い通りにはいかぬものじゃな。
「お着替え終わった~?」
「バカにするでないわ!」
「え?どうしたのちはる?」
「あっ…もうちょっと待って。」
不慮の事故等の想定外の出来事で死亡した人間は、来世に行ってもしばらく記憶が残る場合があるらしい。この記憶が今は邪魔で仕方ない。
兄の墓には、中学生ぐらいの男の子が立っていた。
「あ、たろうちゃん久しぶり~」
「お久しぶりです。」
「来てくれてありがとうね。そうすけもお友達が来て喜んでるよ。」
「そうですね。」
その男の名に覚えがあった。本来自分がトラックで轢く予定だったのはこの男だった。
しかし坊…そうすけは事態に気づくや否や鬼の形相で走り出し、たろうをつき飛ばした。
寸前の事で、ブレーキも間に合わず。一人でいる時を狙うべきだった。私のミスだ。
「ちはるちゃん大丈夫?つらそうだよ。」
それを言うたろうの目も潤んでいた。自分の仕事の業の深さを思い知らされる。
たろうには他の友達がいなかった。そうすけだけが唯一の救いだったのだ。そうすけがいるお陰で石を投げられなくなった。そのそうすけがいなくなったのだ。かける言葉も見つからない。
「たろうちゃんお家でお茶飲んでく?」
「結構です。」
たろうは何かを振り払うかのように走っていった。自分に何か出来るだろうか。