森からの言葉
「こわがらせてしまったね。すまない。」
黒の群れ…見覚えのない着物を着た男はやさしく声をかける。
僕にはもうその声が届かない。既に逃げ出したくていっぱいいっぱいだ。
目の前で人が弾けたのだ。
「もう少しで君は悪い男に連れ去られるところだったんだ。あぶなかったね。」
いったい何がどうなってるんだ?僕にどうしろって言うんだ?
…鬼。
頭に角の生えた大男が住むという島が近くにある。彼らはこの近辺の民から鬼だと恐れられていた。彼らは何か知っているのか?信じられるのか?
会ってどうする?僕は何をしに行くんだ?もとの世界って何だ?
黒服の群れと別れ、脳の整理を行う。
…僕はおじいさんとおばあさんに拾われた身だ。話によると、この森の中で倒れていたらしい。
記憶に残ってすらいない親とは比較にならない程の恩がある。おじいさんがどんな人だろうと、このまま何もしない訳にはいかない。
…おばあさんに会うのは危ない。あいつらがつけてて、おばあさんにも手をかけるかもしれない。
しばらく会えなくなる。長い旅になるかもしれない。
「手を貸そうか?」
聞き慣れない声がした。しかし辺りに人はいない。いるとすればキジぐらいだ。僕はおかしくなってしまったのか。
おじいさんの芝刈りをたまに手伝いに来る人がいた。たしか諭吉と言ったか。いかだを作っているという話を聞いたことがある。あの人の家にいってみよう。