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桃からの言葉
「それじゃおねがいね。」
綺麗に折り畳められた着物を抱え、僕は川へ洗濯に向かった。
歩きなれた道のり、しかしこの荷物の量ではやはりどこか危うげで、とてもじゃないが腰が上がらなくなったおばあさんにさせられる仕事ではなかった。
僕がやってみせるんだ。
なんとか川岸にたどり着いた僕の目には、世にも不思議な物が転がっていた。
獰猛な熊をも押し潰す程の大きな桃が、川を下ってきたのだ。
言葉を失い、呆然とその様を眺めていたら、突如その桃は浮き上がり、奇妙な音を奏でた。
「Я люблю тебя」
なにこの聞き覚えの無い…言葉?
いや、こんな言葉を教わった覚えはない。
「Ik was gelukkig.」
わからない。
「今までありがとう」
ありがとう?…何に?
突如、僕の後ろから四角い箱が飛び込んできた。これも桃に負けず劣らず大きく、そして頑丈そうだ。
「坊!乗れ!」
僕に襲いかかった不安の霧をかき消すような暖かい声。
中にはおじいさんが入っていた。
「速く!」
とらっくと呼ばれたその四角い箱は、唸りながら走りだした。