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凛然たる添い唄  作者: アソラファ・タプールベリ
第一章 新たな風の香り
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番外編『続く伝統』前編

 体操部に入って半年間、部活に行くのはあまり楽しみでなかったというのが本音だ。新入部員はその年の体育祭に向けて「伸膝前転」をやらされるのである。体育祭が毎年恒例であるからして、新入部員が伸膝前転に苦労するのもまた毎年恒例だ。


 新体制になって、寛容な指導が流布したといえども、この伝統を変えることはしないらしい。それほどに根付いたものなのだな、と思った。同時に、伝統は変えられるだけが仕事じゃない、続いてこその伝統じゃないか、と納得した。だから練習することに抵抗は感じていなかった。とはいえ、半年間も単調に練習を継続することにはなかなか辛いものがあった。


 伸膝前転は、見栄えがしない割には難しい技だーーこれは技が完成してからの感想である。そして、経験者なら誰もが抱く印象でもある。


「じゃあこれが伸膝前転だ。これを体育祭でやってもらうから、しっかり練習するように」


 最初の部活でキャプテンの瓜原宏大さんに練習を指南してもらった。


「めっちゃ簡単そうですね」


 愚かにも僕はこうコメントした。これ以外の感想は全く無かった。

 そのとき、宏大さんが密かにニヤッとしたことに僕は気づかなかった。


「とりあえずやってみてくれ」


 よっしゃぁ!やってやるぜ!


 前転は小学校の授業でやったから、その要領だと思った。

 立ち上がるときに膝を伸ばせば良い。それだけだ。膝を伸ばして、手で押して、上がる。完璧ーーなはずだった。


「あれ?」


 直立しているはずの自分の体はまだ横たえられている。


「ちょ、ちょっと失敗しちゃいましたー。えへへー」


 慌てて言い繕いながら立ち上がり、再び伸膝前転を実施する。


 さっきは油断して失敗したから、今回は細かいところまで気を配ることにした。失敗したのは上がるところだけを意識して他が疎かになったせいだ。着手から全てを精緻に行うーーいや、技に臨む姿勢から完璧に行う気概で挑もうと思った。

 成長を見据えて購入した大きめの学校指定のジャージのゴム紐を、ずり落ちないようにしっかりと締める。同時に、テンションが張ったゴム紐のように引き締められるのを感じた。

 始める前に、手を着くところを凝視し、脳内に伸膝前転をやっている自分を投影する。いわゆるイメージトレーニングである。これはトップクラスの体操選手ーーいや、スポーツ選手なら誰でも行っていることだ。

 そして、精神統一をするためにルーティンをーーと言いたいところだが、生憎初めての部活なのでそんな洒落たものは持ち合わせていない。だが、ルーティンなんか無くても精神統一できるーーそう思えるほどには集中していた。


 気合十分。僕は満を持して眼前の強敵に立ち向かう。

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