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『黒鉄・刃』〜漆黒の堕天使の翼の究極なる昏き桎梏のハーレム〜

 此処は、何処だ?


 俺は周囲を見渡した。どうやら森の中であるようだが……


「俺は確か、道に飛び出した子供を……トラックから……」


 そう、俺はトラックに轢かれそうになった子供を助けようと車道に飛び出し、何とか子供を突き飛ばしたことは覚えているのだが。


「俺は、死んだのか。だとすれば此処は天国か、地獄か」


 宵闇の森は暗く、明かり一つ視えない。


「天国だとは思えないが……」


「ガルルルル!」


 獣の唸り声が聴こえた。俺は何かに惹かれるように思わず茂みの向こうへ駆け出した。


「イヤー!誰か、助けてー!」


 少女の甲高い声だ。相手が何者かは分からないが、助けなければ。


 俺は獣の正体も確かめずに掴み掛かった。


「ガルル!」


「此れは……!」


 相手は狼……否、狼人間ワーウルフだ!


 アニメか漫画の中でしか観た事がない其れにたじろぎ乍らも、此の怪物を抑えつける事に成功していた。幼い頃からの古武術の心得があり、17歳の高校生ではあるが腕っぷしには自信がある。

 しかし、何時までも抑えている訳にはいかない。


「貴方様! どうか此の武器をお遣い下さい!」


 後方から先程の少女の声だ。何かを投げた気配を感じとり、俺は其れを片手で受け取った。


「……剣か」


 漆黒の刀身を持つ肉厚の両手剣だ。受け取る為に拘束が解かれ、狼人間はバックステップで間合いを取った。


 流石の俺も真剣で生き物を斬った事はない。例え其れが異形の怪物であったとしても、命を奪う事は躊躇われた。しかし、此処で無用な情けを掛ければ己だけではなく見知らぬ少女までもが奴の餌食となる。


 俺は覚悟を決め、狼人間に斬りかかった!


神武烈風滅殺剣ゴッド・バースト・ブレイド!」


 ズバァァァァァァッ!


 空気が音を立てて裂けるが、狼人間は素早く技を避けた。


神武烈風滅殺剣ゴッド・バースト・ブレイドが効かないとは……矢張り一筋縄ではいかないな」


「剣士様! 危ない!」


 少女の声で我に返る。


 ヒュン!


 間一髪のところで狼人間の攻撃を躱す。


「剣が効かないのならば魔法を使うのです!」


 少女が教えてくれるが、俺は当然魔法など使ったことがない。だが、先程から不思議な事が立て続けに起きているのだから、もしかすると使えるのかもしれない。早速俺は試してみた。


紅蓮爆裂陣フレイム・ボム!」


 ドゴオオオオオォォォォォン!


 精神を集中させ、火球を操るイメージをした。すると、本当に火球が狼人間目掛けて飛んで行ったのだ!


「グギャアアアアア」


 狼人間は黒焦げになって死んだ。


「助かりました。何とお礼を言ったものか、ありがとうございます。私はエルフ族の族長の娘、レイエスと申します」


 少女は金髪に翠の目のエルフだった。透けてヒラヒラとした衣装を身に纏っていて、胸は薄い。


「俺の名は黒鉄くろがねじん


「クロガネ・ジン……不思議な響き……」


 エイレスは顔を紅く染めた。


「クロガネ様、私を助けて頂いたお礼をしたいのです。今夜の宿が無いのでしたら、是非我が家へいらして下さい」


「助かる。お言葉に甘えさせて貰おう」


 こうして俺はエイレスの世話になることになった。


* * * * *


「胸のくだりは失礼すぎないか」


「同感です」


 魔王と側近が観ているのは『黒鉄刃回顧録』と銘打たれた動画である。意外にも、あの世界には映画があるのだ。


「こちらの作品もアルトなんちゃらと同じく、なんちゃらの手記を元に作られています。サイレントということもあって手記の文章がそのまま字幕化されているんですよ、助かりますね」


 側近がキャラメルポップコーンを食みながら言う。時々魔王もつまむが、彼はシンプルに塩味が好みだ。これは側近のおやつなので、別に不満ではないのだが。


「手記を編集しないのが不思議だな」


「でもこの映画、映像の方は実際の出来事をなるべく忠実に再現しているのだそうです。勇者の手記は文章表現に問題があることも多いですから、分かりやすくて本当にありがたい」


 回顧録が娯楽作品となるほどの人気ぶり、彼もまた今を時めく『勇者様』という訳である。


「しかし読みづらい文章だな、それにいきなり読みづらい技を叫ぶし」


「魔王さま、あの、技を叫ぶのに意味はあるんでしょうかね」


 側近はコーラを吸いながら首をひねっている。


「叫ぶことで気合を入れるというのはある程度効果があるが、あんなに複雑な文句である必要はない。それに次の手を予告するということだ、愚かしいな。だが、ああいう勇者はよく見てきた、恐らくは一種の自己暗示でもあるのだろう」「へえ」


 魔王はそういう勇者も嫌いではなかった。御しやすいのだ。


「だが此奴、相当間抜けではないのか。避けられただけで『剣が効かない』とは」


 それを忠実に再現する方もする方だ。


「ただ斬りかかったり、そう大したこともない火球の魔法だったり、相手は狼人間一匹だというのにやたらと表現が仰々しい。最初からこの調子では疲れてしまう」


「映画を観ていると思って、気楽に眺めていれば十分かと存じますよ。コーラはいかがですか」


「いらん」


 字幕の表現は仰々しいものだったが、映像で再現されたものは「それなり」の戦闘風景であった。忠実な再現なのだと思われるが、それは娯楽作品として意味がある忠実さなのだろうか。


「気になるのは、最初にご紹介したアルトなんとかとコイツ、めちゃくちゃ似てるんですよね。親戚か何かなんでしょうか。顔はさておき、思考回路が人間らしくない」


「服のことは適当なのに女の胸を気にする辺りが人間臭すぎると私は思ったぞ」


 魔王と側近が話している間に、『黒鉄刃回顧録』はエイレスとのベットシーンになっていた。


『ジン様……? えっ、そんな、私を……? い、嫌ではありません。嬉しい……』


「知りあって数十分だぞ、嬉しいはないだろ」


「よっ、魔王さま! ツッコミ名人!」「妙なところでゴマを擦るんじゃない」


 魔王は齢千余年の壮年、人間のセックスシーンなど観ても最早何という感慨も湧かないが、これに関してはあまりに稚拙な描写であったのでむしろ見ていて恥ずかしくなってきたのだった。むしろ新鮮な驚きである。


「余りにも微妙すぎて人間が観ても劣情を刺激しないと思うのだが、この場面は意味があるのか」


「ううん……ないでしょうね」


 百年以上前には人間だった吸血鬼が答えた。少し悩んだのは、彼は女性に興味がないからであろう。


「まあ、関係を持ったということが伝わればいいんでしょうけど。是非とも伝えなければならないんですかね、これ」「私に訊くな」「失礼いたしました」


 魔王は映像をぼんやり眺めつつ、要約資料に目を通す。『黒鉄・刃』はトラック事故が何らかの魔法作用を生み、異世界へ転移した青年であるらしい。トラック事故がなぜ魔法作用を引き起こしたのかについては確たる事実は解明されていないものの、『神』と呼ばれるような大いなる意思の存在が介在している可能性が高い。この魔法作用のためなのか、黒鉄刃は元々使えなかった魔法を行使できるようになり、またエルフが所有していた魔剣『漆黒の翼』の真の所有者として認められるなど、転移先世界においては並ぶ者のない強者へと成長していく。

 一見まともな『勇者候補』だが。魔王は動画に視線を戻す。


「また女ではないか」


「また女です。この奴隷女を、彼は普通に買います」


「買うのか……」


 『勇者』的ではない行為に、魔王は唸った。


「でも、現実には、奴隷制が文化の中でここまで定着しているのに、感情ひとつで異邦人がどうにかできるわけがないですよね。助けたいと思ったなら買っちゃうのが後腐れなく済むのではないかって思います」


「お前は悪徳を極めた魔族だからな。己のエゴを満たして何が悪い、というのが我々だ。しかし此奴はこの世界で大いなる善を為そうという男だぞ」


 しかも買い上げたこの女奴隷、胸が大きい。


「魔王さま、ここで耳寄りな情報です。なんと、アルトなんとかさんも巨乳の奴隷を買い上げて仲間にしているんですよ」


 魔王はドン引きした。


「どいつもこいつも、性欲の奴隷か」


「英雄色を好むって言いますしね」


 好むというよりも、それが目的ではないのか。邪推であればよいのだが、と魔王は口にはしなかった。


「ところで此奴、何のために旅をしているのだ。成り行き上あちこちを放浪しているとみえるが、元の世界に帰ろうともしないぞ」


 側近は困り顔で言った。「分からないのです」


「馬鹿な」


「本当に、成り行きに任せて旅しているようなのですが、『彼が何をしたいのか』がさっぱり分からないのです。分かるのは仲間は性交目的で共にしているということ」


「最低だな」よりにもよって魔王が言う。


 突然に異世界に移された人間が、例えその先で丁重に扱われ、英雄として崇められるとしても、その最初の段階から『旅をする』ことに疑問も持たず、成り行きに任せるなどということがあるのだろうか。元の世界に帰りたくないという理由があるとしても、旅というのは過酷なもの。根無し草に世間は冷たい。それを考えもしないとなれば、余程の馬鹿か余程の阿呆だと魔王は思う。魔族でさえも安定した生活を誰もが望んでいるのだ(一部の常識が通じないものは除いて)、側近を見よ。実家を嫌っている彼さえも盆と正月には実家に顔を出して必要以上に嫌われないよう努力しているのだ。


「そういえばお前、盆と正月に墓参りとか言っておったが、吸血鬼は不死者の一族だろう」


「やだな、魔王さま。滅多に死なないだけで死ぬときは死にます。魔王さまが沢山殺したんじゃありませんか。お忘れですか、もう、ふふ」


「私が殺した者の墓か」


 側近は阿呆の割りに時折複雑だ。


「彼の旅はどこで終わるのでしょうねえ」


 側近は答えず、黒鉄刃についてひとりごちた。動画の彼は鉱山に棲みついた一つ目巨人を一刀両断し、地元の住民の感謝を受けている。


『ジン様、流石ですね! 私達の出る幕もなく、一瞬で勝敗が決してしまいました!』


『ホントだニャン! ジンと一緒に居たら腕が鈍っちゃうニャンよ! ニャハハ!』


『御主人様……凄い……やっぱり、私の、カミサマ……』


「何でこの女どもこんなに気持ち悪いんだ」


 側近が冷たい声音で洩らす。


「お前が女嫌いだからなのではないのか」


「別に嫌いじゃありません。対象が魔王さまってだけです」


 問題の多い男だ。


「言う科白言う科白、ジンサマヨイショージンサマヨイショーって、魔王さまに対する俺かお前らは」


「同族嫌悪だな」


「でもこの男には好きになるだけの魅力を感じません。女どもがどれだけ尽くしたって素っ気ない態度だし、愛情に応えるつもりもなく3人キープなんです。強いだけのマッチョなんて、何時の時代の英雄やら。魔王さまの毒のごとき醜悪さと蜜のごとき美麗さ、愛情深いがゆえに冷酷、残忍、誰よりも深く狂っていらっしゃる、このえもいわれぬ慕わしさと恐ろしさに比べれば、なんてペラペラ。なんて愛し甲斐がない。魔王さまだってキスさせてくださったのに」


 愛情深いかどうかは魔王自身は意識していないが、魔王に言わせると側近もひどく狂っている。


「退屈な男じゃないですか。どいつもこいつも一つの敗走もなく、一抹の不安もなく、勝利と名誉のハッピーカラー一色、『勇者』候補探しはこんな奴らばっかりでしたよ。10人集めましたけど、もっと沢山いました。でもそいつらも同じ。奴らを候補から外した理由をお聞きになりたいですか」


 珍しく側近が仕事に対して愚痴を言うので、魔王もたまには付き合うことにした。


「そいつら、凄まじい能力を持っているっていうのに、やれ『戦いたくない』、やれ『目立ちたくない』やれ『面倒くさい』、面倒くさいって。世界が闇の勢力の手に落ちれば、好きに生きることだって叶わないのに。どうせどんな魔物も一捻りっていうオーバースペックを授かっているのだから、魔王退治だって大した労働じゃないはずなんですよ?」


 『魔王』と言うのは、この場合フィーザのことではない。各々の世界で魔族を指揮する魔王フィーザの臣下であったり、従属しない『野良』魔王であったり。領主というのが近いだろう。


「其奴らは世界など顧みることもなく、自分勝手に生きるためにのみ力を行使しているのだな」


「ええ。そんな人間は『勇者』ではありますまい」


「そうであろう、それは魔族の為すべき美徳だ」


 しかし、魔のものどもの美徳は芳しい腐敗臭で人間を誘惑する。それに抗うことができるものは多くはあるまい、だからこそ、誘惑に打ち克つ者を『勇者』と呼ぶのではなかったか。


「語り継ぐべき価値ある真の勇者など、それは最早人間ではあるまいよ」


 神か悪魔か、あるいは人間か。仲間に囲まれた黒鉄刃は底知れぬ笑みを浮かべ、目の奥はただ漆黒だった。

 ジンくん、漆黒感あるけどお人好しで能天気な感じだし、むしろその漆黒キャラを捨てて諸星あたるくらい開き直ってハーレムしたらどうかな。ハーレムの時点でうら若き乙女としてはげろしゃぶだけどな。

 アルトなんとかとモロかぶりなのは仕様ですが、もう少し差別化したかったものです。精進しなければなりません。

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